日本も原子力潜水艦を持つべきか 抑止力の強化か、「平和利用」の転換か
年内に改定される安保3文書に、原子力潜水艦の保有の是非を調査・研究する方針を盛り込む案が浮上しています。小泉防衛相は「議論の必要性は国民も理解している」と述べています。保有を検討すべきだとする立場と、費用や原子力の平和利用の原則から慎重・反対の立場の主張をまとめました。

日本も原子力潜水艦を持つべき?
- 日本の潜水艦の動力
- すべて通常動力
- 建造費の見方
- 「兆円単位」
- 政府見解(1965年〜)
- 原子力船が一般化するまで認められない
検討・導入派
長く潜れて抑止力が高い。あらゆる選択肢を排除せず検討を
慎重・反対派
平和利用の原則と専守防衛に反する。費用と人員も重い
- どちらも認めていること
- 日本周辺の安全保障環境が厳しくなっていること
- 次の焦点
- 年末の安保3文書で原子力潜水艦がどう書かれるか
この記事のポイント
- 政府は、年内に改定する安保3文書に、原子力潜水艦の保有の是非を「調査・研究する」方針を盛り込む検討に入りました。保有を前提とせず、議論の足がかりとする書き方にとどめる可能性があります。
- 日本の潜水艦はすべて通常動力です。原子力潜水艦は長期間潜り続けられ、速度も出ますが、建造費は「兆円単位」との見方もあります。
- 原子力基本法は原子力の利用を平和目的に限っています。政府は1965年以来、原子力船が一般化していない現状では、自衛艦の動力に原子力を使うことは認められないという見解を引き継いでいます。
- 日本維新の会は早期の導入を求め、小泉防衛相も「あらゆる選択肢を排除しない」としています。一方、自民党内にも慎重論が根強く、市民団体などは「専守防衛の枠を大きく超える」と反対しています。
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① 何が起きているのか
原子力潜水艦と通常動力の潜水艦
| 通常動力(日本が保有) | 原子力 | |
|---|---|---|
| 動力 | ディーゼルエンジンと蓄電池 | 原子炉 |
| 潜り続けられる期間 | 限られる(定期的に浮上・充電が必要) | 長期間(食料などが続く限り) |
| 速力 | 比較的遅い | 速い |
| 費用 | 1隻あたり約1千億円規模 | 「兆円単位」との見方も |
| 保有国 | 多くの国 | 米国、ロシア、中国、英国、フランス、インドなど。豪州は米英と協力して導入予定 |
法律と政府の見解
- 原子力基本法:原子力の利用は平和の目的に限る
- 1965年の政府見解:船の動力としての原子力利用が一般化していない現状では、自衛艦の動力に原子力を使うことは認められない
- 1980年の政府答弁:「一般化」とは、原子力商船が一般化する状況を指す
- 政府は2025年にも、この見解を変えていないとしています
最近の動き
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年6月 | 日本維新の会が原潜の早期導入を求める提言 |
| 9月11日 | 小泉防衛相「あらゆる選択肢を排除せずに検討する」 |
| 10月6日 | 安保3文書の改定で、原潜に言及する案が政権内で浮上と報道 |
| 10月7日 | 高市首相「現時点で潜水艦の新しい動力の取り扱いについて決まっていることはない」 |
| 10月9日 | 小泉防衛相「議論の必要性は国民も理解しているところではないか」 |
② それぞれの意見
各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。
検討・導入派の意見
議論の必要性は国民も理解しているところではないでしょうか。現時点で決め打ちはしませんが、あらゆる選択肢を排除せず、国民に丁寧に説明しながら議論していきます(小泉進次郎防衛相)。小泉氏は原子力潜水艦の利点として、長期間潜り続けられることや速力を挙げ、乗組員の安全をより高いレベルで確保しつつ活動でき、危険な海域から安全に離脱できると説明しています。
ミサイルを水中から垂直に発射できる潜水艦を、長距離・長期間運用するための次世代の動力は、原子力以外にありません。早急に導入すべきで、配備計画の企画・立案に直ちに着手するよう求めます(日本維新の会の提言、6月)。自民党と維新の連立合意にも、「次世代の動力」を活用した潜水艦の保有に向けて政策を進めることが盛り込まれています。
中国軍の太平洋への進出が強まっています。政府の有識者会議では、原子力潜水艦は「究極の反撃能力」を持てるとの意見が出ました(遠藤典子・早稲田大学研究院教授)。米海軍の当局者も、原発と原潜は同じ原子力で、日本には技術の土台があると評価しています(ただし「ステータスシンボルとして買うのは間違っている」とも述べています)。
慎重・反対派の意見
原子力基本法は、原子力の利用を平和目的に限っています。政府は1965年以来、「船舶の推進力としての原子力利用が一般化していない現状においては」自衛艦の動力に原子力を使うことは認められないとしてきました。2024年9月には、当時の林芳正官房長官も「現行解釈に従えば、我が国が原子力潜水艦を保有することは難しい」と述べています。
原子力潜水艦は「専守防衛の枠を大きく超える」もので、保有の検討を行わないよう強く求めます。核なき世界を目指す国際的な努力にも逆行します(ピースボートなど市民団体の共同声明、7月)。公明党の斉藤鉄夫代表も、原潜は非常に攻撃性が高く、日本の基本的な方針の転換に結びつく大きな問題で、しっかりとした議論が必要だと指摘しています。
建造費は「兆円単位」との見方があり、自民党内でも膨大な予算を理由に慎重な意見が根強くあります。有識者会議では、人口減少のなかで人員を長期的・安定的に確保できるか不透明だとの指摘も出ました。何に使うのかという目的も、政府内で「コンセンサスは全くない」とされています。共産党は、事故の危険や原子力基本法の理念に反することを挙げて反対しています。
背景を読む:それぞれの思惑
ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。
政府・与党
「保有」ではなく「調査・研究」と書く理由
推測連立相手の維新は早期導入を強く求める一方、自民党内には予算や原子力基本法の解釈を理由とする慎重論が根強くあります。3文書に「保有」ではなく「調査・研究」と書く案は、維新の主張に配慮しつつ、党内の慎重論や法的な壁との折り合いをつける表現とみられます。
推測のもとにした事実
- ・3文書では保有を前提とする表現を避け、研究や議論の足がかりとなる記述にとどめる可能性がある熊本日日新聞(共同・3文書に原潜言及案)(10/6)
- ・自民党内には膨大な予算を理由に慎重論が根強い。維新は早期導入を求めている熊本日日新聞(共同・3文書に原潜言及案)(10/6)時事通信(維新の提言)(6/17)
世の中の声
SNSの反応
検討・導入寄りの声
原子力潜水艦は長く海中に潜んでいられるので、相手に攻撃を思いとどまらせる力は大きいと思う
慎重・反対寄りの声
何に使うのかという目的も定まっていないのに、原潜を欲しがるのはおかしい。法律の制約や何兆円もかかる予算をどう考えているのか疑問だと思う
その他の声
持つかどうかの前に、原潜に何をさせるのかをきちんと詰めるべき。目的があいまいなまま「原子力」だけが独り歩きしていると思う
集め方:X(旧Twitter)で「原潜」×「導入 OR 保有」(いいね100件以上・話題順)で検索し、2026年9月20日〜10月12日の日本語投稿を確認しました。双方の投稿がありました。原子力潜水艦の保有の賛否を直接聞いた全国の世論調査は、確認できた範囲では見当たりませんでした
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。
③ ポイント整理
意見が一致している点
- 中国軍の活動の活発化など、日本周辺の安全保障環境が厳しくなっていること
- 導入するなら、費用・人員・法律の問題を国民に丁寧に説明する必要があること(防衛相も「丁寧に説明」としています)
意見が分かれている点
- 原子力潜水艦を保有すべきか、検討すること自体の是非
- 原子力基本法の「平和目的」と、自衛隊の艦船の動力をどう考えるか
- 巨額の費用と人員をかけるだけの効果があるか
今後の注目点
- 年末に閣議決定される安保3文書で、原子力潜水艦がどう書かれるか
- 11月にも始まるとされる与党協議
- 原子力基本法の解釈を見直す動きが出るかどうか
日本周辺の安全保障環境が厳しくなっているという認識は、多くの立場で共有されています。分かれているのは、その対応として原子力潜水艦まで検討するかどうかです。 検討・導入派は、長期間潜り続けられる能力が抑止力を高めると主張します。慎重・反対派は、原子力の平和利用の原則や専守防衛との関係、兆円単位ともいわれる費用、人員の確保を問題にしています。年末の3文書の書きぶりが、最初の分かれ目になりそうです。
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