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経済・財政(更新 2026年10月24日)

会社の「本当の持ち主」の届け出を義務化へ マネロン対策の切り札か、中小企業の重荷か

政府は、上場企業を除く400万社以上の法人に、会社を実質的に支配している個人(実質的支配者)の氏名や国籍などの届け出を義務づける新法の準備を進めています。マネーロンダリング対策として急ぐべきだとする立場と、中小企業の負担や情報の扱いに慎重な対応を求める立場の主張をまとめました。

東京法務局の練馬出張所
東京法務局練馬出張所(東京都練馬区)写真:Asanagi / Wikimedia Commons(CC0)
結果2026年10月23日:新法案を閣議決定し国会へ、450万法人に届け出義務↓

この記事のポイント

  • 「実質的支配者」とは、会社の議決権の25%超を持つなど、法人の意思決定を実質的に左右できる個人のことです。政府は、上場企業を除くすべての法人に、その氏名・住所・生年月日・国籍の届け出を義務づける新法を準備しています。
  • ペーパーカンパニーを悪用したマネーロンダリング(資金洗浄)や、匿名・流動型犯罪グループ(匿流)への対策が主な狙いで、外国人による土地取得の把握にも使う方針です。届け出をしない法人には、罰則や登記の閉鎖も検討されています。
  • マネロン対策の国際組織FATFの2028年夏の審査を控え、G7で届け出の義務がないのは日本だけです。共同通信は臨時国会に提出し、2028年春ごろの施行を目指すと報じましたが、10月12時点で国会への提出は確認できていません。
  • 日本商工会議所などは制度の必要性を認めつつ、健全な中小企業に過度な負担をかけない設計や、ミスによる未届けへの配慮を求めています。

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① 何が起きているのか

新しい制度の案(内閣官房の資料から)

項目 内容
対象 上場企業などを除くすべての内国法人と、一部の外国法人(400万社以上)
実質的支配者 議決権の25%超を直接・間接に持つ個人など
届け出る内容 氏名、住所、生年月日、国籍
届け出先 公的機関(法務局)
見られる人 一般には公開しない。行政機関が必要な場合や、銀行などに限る方向
罰則 未届けには催告のうえ過料などを検討。3年間届け出がなければ登記の閉鎖も検討

今の制度との違い

  • 2022年から、法務局に実質的支配者の情報を記したリストを出せる制度がありますが、任意で、対象も株式会社に限られています
  • 新しい制度は、これをすべての法人の義務にするものです

各国の例

国・地域 内容
英国 届け出を義務化し、一部の情報を一般公開
ドイツ 届け出を義務化。一般公開はしない
EU 一般公開の規定は、2022年にEU司法裁判所が無効と判断
米国 2025年に国内の会社を届け出の義務から外した

② それぞれの意見

各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。

早期導入派の意見

  1. 約500社のペーパーカンパニーで約4000の法人口座を管理していた会社役員らが逮捕された事件もあり、会社の「本当の持ち主」を把握する仕組みは欠かせません。FATFは、すべての法人に実質的支配者の把握と公的機関への届け出を求めており、G7でこの制度がないのは日本だけです。審査で低い評価を受ければ、各国の金融機関が日本との取引でリスク管理を強めることになります(内閣官房)。

  2. FATFの監視対象の国の一覧(グレーリスト)に載れば、日本経済にも甚大な悪影響が及びかねません。対象は上場会社を除くすべての法人とすべきで、届け出のない会社の登記を閉鎖することも、制裁として過酷ではありません(太田洋弁護士)。

  3. G7で日本だけ制度がない現状は早急に改善すべきです。審査で十分な評価が得られなければ、海外送金の遅れなど実体経済に影響が及ぶおそれがあります。ただし、制裁は予見可能で均衡のとれたものにし、手続きを簡素にすることも必要です(根本直子・早稲田大学大学院教授)。

慎重派の意見

  1. 制度は日本の国際的な信頼を保つために不可欠です。ただ、上場企業以外のすべての法人が対象で、過料などの罰則付きのため影響は大きく、制度の必要性についての議論や国民の理解が十分とはいえません。健全に活動する企業に過度な負担をかけない設計とし、銀行がすでに集めている情報との関係も含め、効果を中小企業に納得のいく形で説明すべきです(日本商工会議所・東京商工会議所)。

  2. 認識不足や事務上のミスで届け出ていない企業に、すぐ罰則を科すのは避けるべきです。確定申告などほかの手続きをしている法人まで、3年間の未届けで登記を閉鎖するのは短すぎます(日商・東商)。全国中小企業団体中央会も、株券を発行していない会社などでは、同族の間で誰が支配しているかの認識が食い違い、届け出をきっかけに親族の対立が表に出かねないとして、手続きの簡素化と十分な周知を求めています。

  3. 集めた情報を見られる範囲を明確にし、目的外に使われないよう担保すべきです(日商・東商)。欧州では、実質的支配者の情報を誰でも見られるようにした規定が、私生活と個人データの保護への重大な干渉だとして、EU司法裁判所に無効とされました(2022年)。米国も2025年、国内の会社を届け出の義務から外しています。

背景を読む:それぞれの思惑

ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。

政府

2028年夏の「国際審査」という締め切り

推測政府がこの法律を急ぐ最大の理由は、2028年夏に予定されるFATFの日本への審査だとみられます。前回の審査で日本は「重点フォローアップ国」とされ、実質的支配者の情報の把握は弱点の一つでした。日商が「施行までの期間が極めて短い」と懸念するのは、この締め切りから逆算した日程だからです。

推測のもとにした事実

世の中の声

③ ポイント整理

意見が一致している点

  • マネーロンダリングや匿流への対策として、会社の実質的な持ち主を把握する仕組みが必要なこと(慎重な日商も「不可欠」としています)
  • 中小企業にとって分かりやすく、手続きの負担が少ない仕組みにすべきこと

意見が分かれている点

  • 届け出をしない法人への罰則や登記の閉鎖を、どこまで厳しくするか
  • 集めた情報を誰がどこまで見られるようにするか
  • 施行までにどれだけ準備と周知の期間をとるか

今後の注目点

  • 新法案が閣議決定され、臨時国会に提出されるかどうか
  • 罰則・閲覧範囲・登記閉鎖の条件が、法案でどう定められるか
  • 2028年夏のFATFの対日審査

会社の「本当の持ち主」を把握する仕組みが必要だという点では、政府も経済界も一致しています。分かれているのは、その仕組みの厳しさと進め方です。 早期導入派は、国際審査を控えて対象を広くし、実効性のある罰則を設けるべきだと主張します。慎重派は、400万社以上の中小企業に過度な負担をかけず、ミスへの配慮や情報の目的外利用を防ぐ仕組みを求めています。

④ その後どうなった?

この記事の公開後に出た結果や、大きな動きを追記しています。

  1. 新法案を閣議決定し国会へ、450万法人に届け出義務

    政府は23日、法人に実質的支配者(ベネフィシャルオーナー)の情報の届け出を義務づける法案を閣議決定し、衆院に提出しました。上場企業を除く国内の法人と、国内で活動する一部の外国法人が対象で、議決権の25%超を持つ個人などを実質的支配者とし、法人の設立時などに氏名・住所・生年月日・国籍を法務局に届け出るよう求めます。違反には、催告をしたうえで罰則を科します。 日本経済新聞によると、対象は非上場の会社やNPOなど約450万法人で、2028年夏までの運用開始を想定しています。G7で届け出の義務がないのは日本だけで、国際組織FATFが法整備を求めていました。12月12日までの今国会での成立を目指します。

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