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事業承継税制の「特例」に廃止論 中小企業の存続に欠かせない支えか、富裕層への過大な優遇か

中小企業の後継者が株式を引き継ぐ際の相続税・贈与税を全額猶予する「事業承継税制」の特例が、2027年末で期限を迎えます。政府税制調査会の会合では「行き過ぎた優遇」との疑問が出る一方、中小企業庁や日本商工会議所は必要性を訴えています。延長・維持を求める側と、廃止・縮小を求める側の主張をまとめました。

町工場(イメージ)
イメージ写真:Dime Gontar from Kiev, Ukraine / Wikimedia Commons(CC BY 2.0)

この記事のポイント

  • 事業承継税制は、中小企業(非上場)の後継者が先代から株式を受け継ぐときの相続税・贈与税の納税を猶予する制度です。2018年に始まった「特例措置」は、対象株式の上限をなくし、相続税・贈与税を100%猶予する、10年限りの措置で、2027年12月31日が期限です。
  • 特例の適用は2024年に1296件、猶予額は計1471億円でした。政府税制調査会の10月9日の会合では、委員から「行き過ぎた措置だ」「富裕層の税逃れに使われてはならない」との声が出ました。
  • 財務省の資料は、株価の高い会社ほど適用率が高いことや、後継者の多くは手元の資産で納税できること、成長への効果が明確でないことを論点として示しました。一方、中小企業庁や日本商工会議所は、雇用や成長投資を支える制度だとして必要性を訴えています。
  • 与党は昨年の税制改正大綱で、特例の期限後のあり方について「2027年度の税制改正で結論を得る」としており、年末の議論が焦点です。

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① 何が起きているのか

事業承継税制のしくみ

一般措置(2009年〜) 特例措置(2018年〜2027年末)
猶予の割合 贈与100%、相続80% 贈与・相続とも100%
対象となる株式 発行済み株式の3分の2まで 全株式
雇用の要件 承継後5年間、平均8割の雇用を維持 8割を下回っても可(専門家の指導・助言が必要)
後継者の数 1人 最大3人
  • 特例を使うには、2027年9月30日までに「特例承継計画」を提出する必要があります。
  • 承継後5年以内に事業をやめるなどすると、猶予されていた税額を全額納めなければなりません。
  • 相続税の最高税率は55%です。

特例の適用状況

年 件数 猶予額
2018年 997件 694億円
2020年 1185件 1157億円
2022年 1205件 1235億円
2024年 1296件 1471億円

(財務省の資料。国税庁統計年報による特例措置分、相続・贈与の合計)

これまでの流れ

時期 出来事
2018年 特例措置を10年間の時限措置として創設
2024年12月 与党の税制改正大綱「適用期限は今後とも延長しない」
2025年12月 大綱で計画の提出期限を延長。期限後のあり方は「2027年度改正で結論」
2026年10月9日 政府税調の専門家会合で、特例の効果や公平性を議論
年末 2027年度税制改正大綱で結論の見通し

② それぞれの意見

各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。

延長・維持を求める立場の意見

  1. 特例を使った企業では、5年間の労働生産性の伸びが6.1%と、使っていない企業(0.1%)を上回りました。雇用を維持する要件も96%の企業が達成しています。特例がなければ「成長投資ができなかった」と答えた企業は49%、「廃業していた」は22%に上ります。計画の提出は地方にも広く及んでおり、都市部に偏りがちなM&Aでは代わりがききません(中小企業庁)。

  2. 親族が後継者になる場合、株を引き継ぐときの障害として「相続税・贈与税の納税資金」を挙げた企業は91.0%に上ります。従業員20人以下の会社でも32.3%は株価が1億円を超えており、換金できない自社株に重い税がかかれば、事業の継続が難しくなります。特例は恒久化すべきです(日本商工会議所)。

  3. 経済産業省は2027年度の税制改正要望で、事業承継税制を、成長投資や賃上げなど「稼ぐ力」の強化に取り組む中小企業を後押しする制度へ「抜本的に見直し・強化」するよう求めています。

廃止・縮小を求める立場の意見

  1. 格差の固定化を防ぐための相続税を100%猶予するのは、行き過ぎた措置です。富裕層が税を逃れるための「資産承継税制」になってはならず、社会的に意義のある承継を後押しする仕組みにすべきです(政府税制調査会の会合での委員の発言)。

  2. 特定同族会社の株の相続は年1.3万件ありますが、約8割を占める株価7000万円以下の層では適用率が3%未満なのに対し、株価10億円超では34.5%に上ります。後継者の68.5%は、手元の流動資産だけで納税額を上回っています。特例を使った企業のうち「経営状況が良くなった」と答えたのは8.0%で、成長への効果は必ずしも明らかではありません(財務省の資料)。

  3. 従業員が少ないのに多額の金融資産や不動産を持つ「資産管理会社」のような会社にも適用されています。従業員6人、特定資産約400億円の会社で、相続税約17億円が猶予された例もあります。会計検査院も、制度が必要最小限になっていないと指摘しています(財務省の資料)。

制度の「作り直し」を求める立場

  1. 制度を残すことを前提に、「事業の継続に欠かせない資産を守る制度」へ目的を絞り直すべきです。金融資産や遊休不動産は猶予の対象から外し、一定期間事業を続けたら猶予税額を免除する仕組みにするなど、再設計が必要です(日本税理士会連合会)。

背景を読む:それぞれの思惑

ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。

財務省・政府税調

「租特見直し」の象徴的なターゲット?

推測特例は、2024年の大綱で「極めて異例の時限措置」として「今後とも延長しない」とされていました。しかし翌年の大綱では計画の提出期限が延長され、期限後のあり方は2027年度改正で結論を出すことになりました。政府が「日本版DOGE」で租税特別措置の見直しを進めるなか、減収額が大きく、利用が富裕層に偏っているとされるこの特例は、見直しの「成果」を示しやすい対象になっているのかもしれません。

推測のもとにした事実

経済産業省・中小企業庁

「廃止」ではなく「作り替え」で守る戦略?

推測経産省は、単純な延長ではなく「稼ぐ力」を後押しする制度への抜本見直しを要望しています。成長投資や賃上げを条件にする形に変えれば、「富裕層優遇」という批判をかわしつつ、制度そのものは残せます。廃止論が強まる前に、看板を掛け替えて生き残りを図る戦略とも読めます。

推測のもとにした事実

自民党

中小企業の経営者は大切な支持層

推測中小企業の経営者や商工会議所は、自民党にとって地域の重要な支持基盤です。2027年4月の統一地方選を控え、事業承継の支援を打ち切ることへの反発は避けたいはずです。年末の党税制調査会で、財務省の問題提起と、中小企業の声のどちらが重く扱われるかが注目されます。

推測のもとにした事実

世の中の声

世論調査

  • 事業承継税制や相続税について聞いた最近の全国世論調査は、確認できた範囲では見当たりませんでした。参考として、帝国データバンクの2025年の調査では、後継者がいない企業の割合は50.1%で、7年連続で改善しました。

    ITmedia ビジネスオンライン(帝国データバンク調査)

SNSの反応

延長・維持を求める立場寄りの声

  • 問題は計算式の細かい調整ではなく、換金できない自社株に重い相続税を現金で払わせる仕組みそのものだと思う

  • 中小企業の株にかかる相続税を重くすれば、事業承継がめちゃくちゃになる。後を継ぐ人がいなくなってしまう

廃止・縮小を求める立場寄りの声

  • 財務省の資料を見ると、後継者は手元の資産と収入で相続税を十分払えるケースが多い。不動産賃貸業が優遇されすぎているのも気になる

  • もうかっていて会社にお金もたまっているのに、株の評価が安すぎた。その上で税を全額猶予するのは優遇が重なりすぎだと思う

集め方:X(旧Twitter)で「事業承継税制」(いいね10件以上・話題順)で検索し、2026年8月〜10月10日の日本語投稿を確認しました。税理士や経営者による専門的な投稿が多く、非上場株式の評価見直しとあわせて論じる投稿が目立ちました
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。

③ ポイント整理

意見が一致している点

  • 後継者がいない中小企業が多く、事業の継続を支える必要があること
  • 資産管理会社のような、制度の趣旨に合わない使われ方は見直すべきこと(延長を求める日本税理士会連合会も、金融資産などを対象から外すよう提案しています)

意見が分かれている点

  • 相続税・贈与税の100%猶予を続けるべきか、一般措置(相続は80%猶予)に戻すべきか
  • 特例が企業の成長や雇用の維持に役立っているか
  • 利用が株価の高い企業に偏っていることを「富裕層優遇」とみるか、「必要な支援」とみるか

今後の注目点

  • 年末の2027年度税制改正大綱で、特例を延長・廃止・作り替えのどれにするか
  • 非上場株式の評価方法の見直し(国税庁の有識者会議)の行方
  • 経産省が求める「稼ぐ力」を条件にした制度の具体的な中身

中小企業の事業継続を支える必要があることや、制度の趣旨に合わない使われ方を見直すべきだという点では、各立場に重なりがあります。対立の中心は、相続税・贈与税を「全額」猶予する特例を、期限後も続けるかどうかです。 延長を求める側は、雇用や成長投資を支え、地方の企業の存続に欠かせないと主張し、廃止・縮小を求める側は、株価の高い企業に利用が偏り、成長への効果も明らかでないと指摘しています。年末の税制改正で、どんな形で結論が出るかが注目されます。

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