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経済・財政

最低賃金が全国平均1177円に 「1500円」目標の先送りは現実的か、後退か

2026年度の最低賃金が10月から順に発効し、全国平均は1177円になりました。一方、政府は「全国平均1500円」の達成時期を「遅くとも2030年代前半」に事実上先送りしました。引き上げを急ぐべきだという側と、中小企業の支払い能力に配慮すべきだという側、それぞれの主張をまとめました。

この記事のポイント

  • 2026年度の最低賃金は、全国加重平均で56円上がって1177円になりました。上げ幅は過去最大だった昨年度(66円)に次ぐ2番目です。10月1日の東京(1280円)などを皮切りに、12月までにすべての都道府県で発効します。
  • 国の審議会が示した目安(55円)は、6年ぶりに上げ幅・上げ率とも前年度を下回りました。
  • 高市政権は7月、「全国平均1500円」の達成時期を、石破前政権の「2020年代」から「遅くとも2030年代前半のできる限り早期」に改め、事実上先送りしました。
  • 中小企業の多くが最低賃金の引き上げを負担に感じる一方、物価高のなかで働く人の生活は苦しく、引き上げのペースをめぐって意見が割れています。

① 何が起きているのか

10月から、各地で新しい最低賃金が順に発効しています。

2026年度の最低賃金

  • 全国加重平均:1121円 → 1177円(56円増)
  • 最も高い:東京都 1280円
  • 最も低い:宮崎県 1085円(最高額との差は195円に縮小)
  • 発効時期:10月が37都道府県、11月が7府県、12月が3県

「1500円」目標の移り変わり

政権 目標
岸田政権 2030年代半ばまでに全国平均1500円
石破政権(2025年) 2020年代に全国平均1500円(年7%超の引き上げが必要)
高市政権(2026年7月) 遅くとも2030年代前半のできる限り早期に全国平均1500円

最低賃金はどう決まる?

国の中央最低賃金審議会(労働者・使用者・有識者の代表で構成)が毎年夏に引き上げの「目安」を示し、それをもとに各都道府県の審議会が金額を決めます。法律では、①労働者の生計費、②一般的な賃金水準、③企業の支払い能力、の3つを考慮して決めることになっています。

中小企業をめぐる数字

  • 最低賃金の引き上げを負担に感じる企業:76.6%(日本商工会議所の調査)
  • 2026年4〜9月の人手不足関連の倒産は240件で、上半期として過去最多。このうち人件費の高騰によるものは130件(東京商工リサーチの集計として報じられた数字)

② それぞれの意見

各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。

引き上げ加速派の意見

  1. 最低賃金の上げ幅にブレーキがかかったのは残念です。政権が代わるたびに目標を変えていては予見可能性が崩れます。日本の最低賃金は、フルタイム労働者の賃金の中央値に対する割合が46%にとどまり、60%を超える英国やフランスに見劣りします。景気や雇用が悪化しない限り、引き上げペースをあまり緩めるべきではありません(日本経済新聞)。

  2. 最低賃金に近い水準で働く人の家計は、食料品などの物価上昇で圧迫されています。根拠に基づく審議を前提に、高い水準の引き上げを続けるべきです。引き上げの代わりに発効日を遅らせる動きは、働き手にとってマイナスです。政府は価格転嫁の監督強化や生産性向上への助成など、中小企業が原資を確保しやすい環境を整えるべきです(朝日新聞)。

  3. 連合は、目安は春闘の成果を労働組合のない職場に広げるには「十分とは言えない」としています。労働者側は審議で75円の引き上げを求めました。全労連は、生計費より企業の支払い能力を優先した審議だと批判し、共産党は「全国一律1700円」への引き上げを主張しています。

支払い能力重視派の意見

  1. 日本商工会議所など中小企業の3団体は、「1500円」目標は中小企業・小規模事業者の経営実態から「著しく乖離」しているとして見直しを求めました。最低賃金は赤字企業にも強制的に適用されるセーフティーネットであり、賃上げの政策手段として使うのは適切ではないと主張しています。日商の調査では、最低賃金の引き上げを負担に感じる企業が76.6%に上りました。

  2. 2026年度の目安は、物価上昇が前年度より鈍化していることや中小企業の厳しい経営環境を考えれば、堅調な上げ幅と評価できます。人材確保のための近隣県との過度な引き上げ競争に陥らず、中小企業の支払い能力に十分配慮して最適解を探るべきです(日刊工業新聞)。

  3. 経済産業研究所の森川正之氏は、日本では最低賃金の引き上げが雇用にマイナスの影響を与えたとする研究が多く、生産性が上がった証拠は乏しいと指摘しています。地域の生産性と釣り合わない引き上げは、地域経済の衰退を招きかねないとしています。

制度の見直しを提案する立場

  1. 日本総合研究所の山田久氏は、政府主導の引き上げを前向きに評価しつつ、過大な上乗せで求人が減る傾向も出ていると指摘しています。価格転嫁の支援を立て直すことや、常設の第三者委員会の設置、産業ごとの最低賃金の活用を提言しています。

背景を読む:それぞれの思惑

ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。

高市政権

「1500円」を先送りした理由

推測石破前政権は「2020年代に1500円」を掲げ、担当閣僚が経済団体などに大幅な引き上げを働きかけたとされます。高市政権は目標時期を後ろにずらし、今年の審議では目立った政治の介入はなかったと報じられています。「賃上げは成長戦略で」という立場をとり、最低賃金の決め方を審議会に戻した形です。地方や中小企業の経営者という自民党の支持基盤に配慮した側面もありそうです。

推測のもとにした事実

厚生労働省

助成金「25倍」要求の意味

推測厚労省は、中小企業の賃上げを支援する業務改善助成金について、2026年度の21億円から、2027年度は543億円へと大幅な増額を求めています。引き上げのペースを維持するには、中小企業への「アメ」が欠かせないという判断でしょう。年末の予算編成で財務省がどこまで認めるかが、今後の引き上げペースを左右しそうです。

推測のもとにした事実

都道府県・知事

隣の県に負けられない「引き上げ競争」

推測人口減少と人手不足のなかで、最低賃金が隣の県より低いと、働き手が流出しかねません。そのため多くの県が国の目安に上乗せしてきました。一方で、地元の中小企業の負担を和らげるために発効日を遅らせる県も相次ぎました。「金額では競いつつ、時期で調整する」という知事たちの苦しい計算が見えます。

推測のもとにした事実

中小企業団体

金額より「時期」で負担を抑える交渉

推測中小企業団体は1500円目標の見直しを求めるとともに、発効日を原則として1月以降にするよう要望していました。引き上げ額そのものを抑えるのが難しくても、発効を遅らせれば、その年度に払う人件費は少なくて済みます。金額と時期の両面で負担を抑えようとする交渉戦略と言えます。

推測のもとにした事実

労働側(連合)

不満を抱えつつ「受け止める」理由

推測労働側は75円の引き上げを求めましたが、目安は55円にとどまりました。それでも連合は、公労使の議論の結果として目安を「受け止める」としています。大都市と地方の差を縮める方向が示されたことを評価し、制度そのものへの信頼を損なわないよう、決裂を避けたと見ることもできます。

推測のもとにした事実

  • ・連合は、目安は十分とは言えないが公労使の議論の結果として受け止めるとし、B・CランクがAランクより高い上げ幅になったことを地域差を縮める一歩と評価した連合(事務局長談話)(7/29)

世の中の声

世論調査

  • 最低賃金の引き上げや「1500円」目標について一般の人に賛否を尋ねた全国の世論調査は、確認できた範囲では見当たりませんでした。参考として、日本商工会議所の企業調査(3780社)では、最低賃金の引き上げを「負担に感じる」企業が76.6%でした(地方77.9%、都市部69.8%)。

    かいけつ労務(日商の調査)(3/18)

SNSの反応

引き上げ加速寄りの声

  • 人手不足と言いながら給料は据え置き。その条件で働く人にも家賃と食費があることを忘れないでほしい

  • 週5日フルタイムで働いても、税金や社会保険料を引かれると暮らしは楽にならない。最低賃金はもっと上げるべきだと思う

  • 「2020年代に1500円」と決めたはずなのに、政権が代わったら先送り。決まったことでも変えられるのかと思う

支払い能力重視寄りの声

  • いきなり1500円にしたら、飲食店や小売は店を減らすか、人を減らすしかなくなると思う

その他の声

  • 株価は最高値なのに、人手不足倒産は過去最多。景気の実感がばらばらで、よく分からない

集め方:X(旧Twitter)で「最低賃金」(いいね50件以上・話題順)と、「最低賃金」×「中小企業 OR 倒産 OR 払えない OR 経営者 OR 1500円」(いいね20件以上)で検索し、2026年7月20日〜10月10日の日本語投稿を確認しました。生活の苦しさから引き上げを求める声が多く、経営側の負担を訴える声は少数でした
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。

③ ポイント整理

意見が一致している点

  • 物価高のなかで、最低賃金で働く人の生活を支える必要があること
  • 中小企業が賃上げの原資を確保できるよう、価格転嫁や生産性向上の支援が必要なこと
  • 地域間の差を縮めていくこと

意見が分かれている点

  • 引き上げのペースを速めるべきか、中小企業の支払い能力に合わせて抑えるべきか
  • 「全国平均1500円」をいつまでに目指すべきか
  • 発効日を遅らせることを認めるべきか

今後の注目点

  • 11〜12月の各地の発効と、中小企業の経営・雇用への影響
  • 年末の予算編成での中小企業向け助成金の扱い
  • 国の審議会での目安制度の見直し(2027年度中にとりまとめ予定)

「働く人の暮らしを支えるために賃金を上げる」「そのために中小企業を支える」という方向性では、双方がおおむね一致しています。分かれているのは、引き上げのスピードと、その負担を誰がどう分かち合うかです。 物価高のなかで引き上げを急ぐよう求める声と、人手不足倒産が過去最多となるなかで慎重さを求める声。「1500円」の先送りを「現実的な修正」と見るか「後退」と見るかで、評価は大きく分かれています。