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残業の「一律指導」見直しと裁量労働制の拡大 働く自由を広げるか、長時間労働への逆戻りか

高市首相の指示で、労働時間規制の見直しが進んでいます。厚生労働省は9月から、残業を月45時間以内に減らすよう一律に求める指導をやめ、裁量労働制の拡大も労働政策審議会で議論が始まりました。柔軟な働き方を広げるべきだとする立場と、長時間労働の是正を優先すべきだとする立場の主張をまとめました。

夕暮れの都心のオフィスビル群(イメージ)
イメージ写真:Syced / Wikimedia Commons(CC0)
10秒でわかるこの争点の構図

残業の規制をゆるめ、裁量労働制を広げるべき?

違法な残業が見つかった事業場(2025年度)
38.5%
過労死などの労災認定(2025年度)
1310件・過去最多
規制緩和への賛否(日経・テレ東、2025年10月)
賛成64%・反対24%

緩和・拡大派

上限規制は守ったうえで、働きたい人が働ける柔軟さを

VS

是正優先派

違法残業も過労死も多い。緩める前に長時間労働の是正を

どちらも認めていること
過労死ラインを超える働き方は認めないこと
次の焦点
年末に向けた労働政策審議会の議論

この記事のポイント

  • 高市首相は就任時、「心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討」を厚生労働相に指示しました。
  • 厚労省は9月1日から、残業時間の数だけを見て「月45時間以内に減らすように」と一律に求める労働基準監督署の指導をやめ、健康を守る措置がとられているかを重点的に確認する方式に変えました。法律で定めた残業の上限そのものは変わっていません。
  • 働いた時間ではなく、あらかじめ決めた時間を働いたとみなす「裁量労働制」の対象を広げるかどうかも、労働政策審議会で議論が本格化しています。経団連は拡大を求め、連合は強く反対しています。
  • 2025年度の監督指導では、調べた事業場の38.5%で違法な残業が見つかり、過労死などの労災認定は過去最多の1310件でした。

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① 何が起きているのか

9月から何が変わったのか

内容
やめたこと 残業時間の数だけを見て「月45時間以内に減らすように」と一律に求める指導(月100時間未満まで残業を認める協定を結んでいる事業場も対象になっていた)
新たに始めたこと 協定で定めた「健康と福祉を守る措置」がとられているかを重点的に確認/専門の相談窓口の設置/労基署などによる訪問支援
変わらないこと 法律の残業の上限規制。健康を損なうおそれが高い場合や悪質な事案への指導・対応

残業の上限規制(働き方改革関連法)

  • 原則:月45時間・年360時間
  • 特別な事情がある場合:年720時間以内、休日労働を含めて単月100時間未満、2〜6か月の平均80時間以内(月45時間を超えられるのは年6か月まで)
  • 大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から適用。違反には罰則があります

裁量労働制とは

実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決めた時間を働いたとみなす制度です。

  • 専門業務型:研究開発、デザイナー、記者など20の業務
  • 企画業務型:会社の中枢で企画・立案などを行う業務
  • 2024年4月から、専門業務型にも本人の同意が必要になりました
  • 導入している企業は、専門業務型で2.1%、企画業務型で1.0%(厚労省の調査)

数字で見る長時間労働

  • 監督指導(2025年度):2万9150事業場のうち、違法な残業は1万1228(38.5%)。そのうち月80時間超が4991、月100時間超が2842
  • 過労死などの労災認定(2025年度):1310件(過去最多)。うち精神障害が1082件

② それぞれの意見

各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。

緩和・拡大派の意見

  1. 規制に企業が過剰に反応し、本来ならもう少し働けるのに、ずいぶん乖離がある現状もあります。過労死ラインを超えろとは言いません。そこは絶対に守っていただきます(高市首相、2025年11月の参院予算委員会)。首相は就任時に、健康の維持と働く人の選択を前提に、労働時間規制の緩和を検討するよう指示しています。

  2. 残業の上限規制は堅持すべきですが、自律的に働く人も含めて画一的に適用されていることが問題です(経団連・筒井義信会長)。経団連は裁量労働制の対象を、顧客の課題を解決する提案業務などに広げるよう提言しました。適用されている人の約8割が満足し、ホワイトカラーの33%が適用を望んでいるとしています。日本商工会議所も、一律の指導が企業活動を萎縮させているとの考えを示しています。

  3. 個人の自律と健康を保つ仕組みを整えつつ、裁量労働制の対象業務を徐々に広げるべきです(日本経済新聞)。経済学者の清滝信宏氏(プリンストン大学)は、労使の合意に基づく緩和は技能の向上や所得の増加につながりうるとしています。

是正優先派の意見

  1. 一律の指導の見直しは非常に遺憾で、時間外労働を促しかねません。労働者の命と健康を守ることを考えれば、規制は厳しくあるべきです(連合・芳野友子会長)。連合は、裁量労働制の拡大も長時間労働を助長しかねないとして反対しています。過労死の遺族や弁護士の団体も、規制の緩和に強く反対しています。

  2. 2025年度の監督指導では、2万9150の事業場のうち38.5%で違法な残業が見つかりました。月80時間を超える残業があった事業場も4991にのぼります。過労死などの労災認定も1310件と過去最多です。「規制緩和のごり押し」は許されず、長時間労働の是正こそが先です(東京新聞・中日新聞)。北海道新聞も、国会を通さずに運用で変えたことを問題視しています。

  3. 労働時間を増やしても、生産性は上がりません(星岳雄・東京大学教授)。長時間労働と生産性には負の関係があるという研究が大半です(北尾早霧・政策研究大学院大学教授)。2025年11月の経済学者への調査では、労働時間規制の緩和は「労働者にとって望ましくない」が42%で、「望ましい」の18%を上回りました。

背景を読む:それぞれの思惑

ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。

高市首相

「働いて働いて」の背景にある人手不足

推測首相は所信表明演説で、人手不足を「人口減少社会の最大の課題」と位置づけています。働く人が減るなかで、働きたい人にもっと働いてもらい、経済の成長につなげたいという考えがあるとみられます。ただ、首相も「過労死ラインは絶対に守る」としており、どこまで緩めるのかの線引きが問われます。

推測のもとにした事実

厚生労働省

法改正の前に「運用」で先に動いた

推測裁量労働制の拡大などの法改正は、労使の対立が大きく、結論の時期も決まっていません。そのため、法律を変えなくてもできる労働基準監督署の指導の見直しを先に進めたとみられます。北海道新聞が「国会を通さずに運用で変えた」と批判するのは、この点です。

推測のもとにした事実

世の中の声

世論調査

  • 日本経済新聞とテレビ東京の世論調査(2025年10月)では、労働時間規制の緩和に「賛成」が64%、「反対」が24%でした。39歳以下では賛成が7割台半ばにのぼりました。

    日本経済新聞(世論調査)(10/27)

SNSの反応

緩和・拡大寄りの声

  • 残業規制をゆるめても、残業が義務になるわけではない。働きたい人が働けるようにするだけだと思う

是正優先寄りの声

  • 長く働きたいと思っている人はごく一部だと思う。もっと稼ぐより、家族と過ごす時間がほしい人のほうが多いはず

その他の声

  • 「月45時間の規制が緩和された」と聞くけれど、上限規制そのものは変わっておらず、労基署の指導の仕方が変わっただけ。少し誤解されていると思う

集め方:X(旧Twitter)で「労働時間規制 OR 残業規制 OR 裁量労働」×「緩和 OR 見直し」(いいね100件以上・話題順)と、「労働時間規制 OR 残業規制」×「働きたい OR 稼ぎたい OR 自由 OR 賛成」(いいね30件以上)で検索し、2026年9月1日〜10月12日の日本語投稿を確認しました。双方の投稿がありました
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。

③ ポイント整理

意見が一致している点

  • 過労死ラインを超えるような長時間労働は認められないこと(首相も「絶対に守る」としています)
  • 働く人の健康を守る仕組みが前提になること

意見が分かれている点

  • 残業時間の数だけで一律に指導する方法をやめたことの是非
  • 裁量労働制の対象を広げるべきか
  • 今の規制は「企業の過剰反応」を招いているのか、長時間労働を防ぐ必要な歯止めなのか

今後の注目点

  • 労働政策審議会での裁量労働制などの議論(年末に向けて本格化)
  • 労働基準法の改正案が出されるかどうか、出るならその時期
  • 指導の見直し後、違法残業や過労死の件数がどう変わるか

過労死につながるような長時間労働は認めないという点では、首相も経済界も労働組合も一致しています。分かれているのは、今の規制が「働きたい人の足かせ」になっているのか、「長時間労働を防ぐ必要な歯止め」なのか、という見方です。 緩和・拡大派は、自律的に働く人まで一律に縛る仕組みを改め、柔軟な働き方を広げるべきだと主張します。是正優先派は、違法な残業や過労死が今も多い現状で規制を緩めれば、長時間労働に逆戻りすると警告しています。

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