岩屋氏の「原因はこちら」発言 中国外務省の引用を原文で検証
岩屋毅前外相が訪中後に語った「原因はこちら側が作っている」という発言を、中国外務省の報道官が「日本の有識者の理性と良心」と評価し、日本批判に使いました。いつ、どこで、何を指して言ったのか、中国側の引用で抜け落ちた部分はあるのかを、会見の要旨と中国外務省の原文で確かめ、「軽率な発言」とみる立場と「対話を求めた発言」とみる立場の見方をまとめました。
結論:広がっている話は本当?
- 事実「岩屋氏が『日中対立の原因は日本側が作った』と言った」10月1日のロイターへのメール回答で「原因を作ったのはこちらなのだから、こちらから積極的に動くべきだろう」、10月2日の別府市での会見で「率直に言って原因はこちら側が作っている」と述べました。会見では、高市首相の台湾有事をめぐる答弁が「個別具体のことについて言ったかのように聞こえたことが不信を生んだ原因」と説明しています
- 事実「中国政府が岩屋氏の発言を引用し、日本批判に使った」10月12日の中国外務省の定例会見で、環球時報の記者が岩屋氏の発言を取り上げ、毛寧報道官が「日本国内の有識者の理性と良心を示すもの」と評価したうえで「責任は完全に日本側にある」と述べました。中国外務省のサイトに記録があります
- 不正確「岩屋氏は『悪いのは日本だけ』と言った」岩屋氏は会見で、政府に取り組みを求めたのは「当然、両国政府のこと」とし、「中国側も窓口を開いて対話に応じてほしい」とも述べています。ロイターには「中国側が対話の窓口を閉ざしていることもあるが」とも書いています。中国外務省の会見でのやり取りには、この部分は出てきません
- 事実「岩屋氏は中国で『異例の厚遇』を受けた」共産党政治局員の王毅外相(9月28日)と何立峰副首相(9月29日)が2日続けて会談しました。共同通信は、昨年11月以降で中国指導部が日本の国会議員と会うのは初めてで、2日連続の設定は「異例」と伝え、高市政権に態度の変更を迫る狙いの「厚遇」とみています
- 確認できず「日本政府が岩屋氏の発言に抗議・反論した」木原官房長官は9月29日、会談について「民間経済団体の動向だ。逐一コメントすることは控える」と述べました。10月12日の中国外務省の発言を受けて、政府が抗議・反論したという報道は見つかりませんでした。岩屋氏が発言を撤回・訂正したという報道も見つかっていません

岩屋前外相の「原因はこちら側」発言、中国にどう使われたのか
- 発言(ロイターへのメール/別府の会見)
- 10月1日・2日
- 中国外務省が会見で取り上げた日
- 10月12日
- 訪中で会談した共産党政治局員
- 2人
軽率な発言とみる
「原因は日本」と言えば中国の宣伝材料になる。元外相として軽率だった
対話を求めた発言とみる
答弁が生んだ不信の解消を日本政府に求め、中国にも対話を求めた。切り取りだ
- どちらも認めていること
- 高市首相の答弁のあと、日中関係が冷え込んだままであること
- 次の焦点
- 日中の政府間対話が再開されるか。11月のAPEC首脳会議に向けた動き
この記事のポイント
- 岩屋毅前外相は9月27日から日本国際貿易促進協会(国貿促)の会長として訪中し、王毅外相、何立峰副首相と2日続けて会談しました。
- 帰国後、10月1日にロイターへのメール回答で「原因を作ったのはこちらなのだから、こちらから積極的に動くべきだろう」、10月2日に地元・別府市の会見で「率直に言って原因はこちら側が作っている」と述べました。
- 会見で岩屋氏は、高市首相の台湾有事をめぐる答弁が、個別具体のケースに触れたように聞こえたことが中国の「不信を生んだ原因」と説明し、中国側にも対話の窓口を開くよう求めました。
- 10月12日、中国外務省の毛寧報道官は会見でこの発言を「日本国内の有識者の理性と良心」と評価し、「責任は完全に日本側にある」と述べました。中国側にも対話を求めた部分には触れていません。
みんなは?
読者アンケート・回答 件※ 統計的な世論調査ではありません。
① 何が起きているのか
広がっている話を整理すると
| 広がっている話 | 確認できたこと |
|---|---|
| 岩屋氏が「原因は日本側が作った」と言った | 事実です。10月1日のロイターへのメール回答と、10月2日の別府市での会見で、そういう趣旨を述べました |
| 中国政府が発言を利用した | 事実です。10月12日の中国外務省の会見で、報道官が「有識者の理性と良心」と評価し、「責任は完全に日本側にある」と述べました |
| 岩屋氏は「悪いのは日本だけ」と言った | 不正確です。「両国政府」に取り組みを求め、中国にも対話の窓口を開くよう求めています |
| 中国で「異例の厚遇」を受けた | 事実です。共産党政治局員2人が2日続けて会談し、共同通信は「異例」と伝えました |
| 日本政府が発言に反論した | 確認できませんでした。官房長官は会談について「逐一コメントすることは控える」としています |
発言までの流れ
| 日付 | できごと |
|---|---|
| 2025年11月 | 高市首相が国会で、台湾有事が存立危機事態になり得ると答弁。日中関係が冷え込む |
| 2026年9月27日 | 岩屋氏が国貿促の会長として、約50人の代表団を率いて北京へ |
| 9月28日・29日 | 王毅外相、何立峰副首相と相次いで会談。中国側は首相答弁の「是正」を求める |
| 10月1日 | ロイターへのメール回答で「原因を作ったのはこちらなのだから、こちらから積極的に動くべきだろう」 |
| 10月2日 | 別府市の会見で「率直に言って原因はこちら側が作っている」 |
| 10月12日 | 中国外務省の会見で、環球時報の記者が発言を取り上げ、報道官が評価 |
| 10月22日 | 集英社オンラインが「発言を中国政府にまんまと利用され」と論評 |
会見で岩屋氏が実際に言ったこと
大分合同新聞が載せた会見の要旨によると、記者から「政府にはしっかり取り組んでほしい」とは日中どちらの政府を指すのかと問われ、岩屋氏は次のように答えています。
- 「当然、両国政府のこと」
- 「率直に言って原因は日本側がつくっているので、日本政府において関係改善に向けてしっかり取り組んでもらいたい」
- 「生じている不信を解消する努力を日本政府にやってもらいたいですし、中国側も窓口を開いて対話に応じてほしい」
「原因」の中身については、高市首相の答弁が「あたかも個別具体のことについて言ったかのように聞こえたことが不信を生んだ原因」だと説明しました。
中国外務省の会見では何が言われたか
10月12日の定例会見の記録(中国語)を要約すると、次のとおりです。
- 環球時報の記者:岩屋氏は訪中後、中日関係が悪化した原因は日本側にあり、日本政府は改善に努めるべきだと述べた。中国側の評価は
- 毛寧報道官:日本国内の有識者の理性と良心を示すもので、積極的に評価する。問題の根源と本質は日本の為政者の歴史観・中国観にある。責任は完全に日本側にあり、関係を正常に戻すボールも日本側にある
岩屋氏が中国側にも対話の窓口を開くよう求めた部分は、質問にも答えにも出てきません。
出典
② それぞれの意見
各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。
軽率な発言とみるの意見
集英社オンラインの小倉健一氏は、日本に責任があるとする岩屋氏の主張は「中国側の理屈を助ける材料」になると批判しました。日本が譲らないから対立が長引く、という主張に使われかねないとしています。
実際に中国外務省は10月12日の会見で、環球時報の記者の質問に答える形で岩屋氏らの発言を取り上げ、「彼ら」が言うように問題の根源と本質は日本の為政者の歴史観・中国観にあるとし、「責任は完全に日本側にある」と述べました。
共同通信は、習近平指導部が日中関係を重視する政治家や経済界のリーダーを厚遇し、高市政権に態度変更を迫る狙いがあると分析しました。小倉氏は、厚遇を受けても政府間の対話の窓口は開かず、成果も確認できないとしています。
対話を求めた発言とみるの意見
岩屋氏は会見で、政府に取り組みを求めたのは「当然、両国政府のこと」だと説明しました。そのうえで「生じている不信を解消する努力を日本政府にやってもらいたいですし、中国側も窓口を開いて対話に応じてほしい」と述べています。
「原因」の中身について岩屋氏は、存立危機事態について政府は個別具体のことは言ってこなかったが、高市首相の答弁は「あたかも個別具体のことについて言ったかのように聞こえたことが不信を生んだ原因」と説明しました。中国側には、首相がその後の答弁などで政府の立場は変わっていないと示した経緯を伝えたとしています。
国内の反発については「誰も会わないで何か事態が改善するのかというと、決してそうではないと思う」と述べ、政治局員2人との会談は対話が途絶えていた状況からすれば「一歩前進」だとしています。王毅外相には、日本批判に使う「新型軍国主義」という言い方を控えるよう求めたとも明かしました。
日本政府
木原官房長官は9月29日、岩屋氏と王毅外相の会談について「民間経済団体の動向だ。逐一コメントすることは控える」と述べ、「懸案や意見の相違があるからこそ、幅広い分野で重層的な意思疎通を行うことが重要だ」とするにとどめました。
関連動画
背景を読む:それぞれの思惑
ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。
中国政府
なぜ10日たってから、外務省の会見で岩屋氏の発言を取り上げたのか
推測質問したのは中国共産党系の環球時報の記者で、報道官はあらかじめ用意したような答えで「日本国内の正義の声」に耳を傾けるよう日本政府に求めました。日本の元外相の言葉を使うことで、「責任は日本にある」という中国側の主張に、日本国内にも同じ見方があるという形を与えたかったとみられます。中国の報道でも、発言は高市首相の答弁を名指しした批判として紹介されました。
推測のもとにした事実
- ・10月12日の会見で、環球時報の記者が岩屋氏の発言を挙げ、報道官が「理性と良心」と評価した中国外交部(2026年10月12日 毛寧報道官 定例記者会見、中国語)(10/12)
- ・極目新聞は、岩屋氏の発言を、高市首相の台湾有事をめぐる発言を名指しで批判したものとして伝えた極目新聞(湖北省の報道機関、中国語)(10/8)
岩屋氏
なぜ「原因はこちら側」という強い言い方をしたのか
推測岩屋氏は、高市首相の答弁が中国の不信を招いたという見方に立ち、まず日本政府が動くことで政府間の対話を再開させたいと考えているとみられます。ただ、会見での説明は「答弁が誤解を招いた」という趣旨で、短く切り出すと「日本が悪い」と受け取られやすい言い方でした。
推測のもとにした事実
- ・岩屋氏は、答弁が個別具体のことに触れたように聞こえたことが不信を生んだと説明した大分合同新聞(岩屋毅前外相と記者とのやりとりの要旨)(10/2)
- ・ロイターへの回答で「こちらから積極的に動くべきだろう。政府の一層の努力を求めたい」と述べたニューズウィーク日本版/ロイター(中国、高市首相に「極めて厳しい姿勢」と岩屋氏)(10/2)
世の中の声
SNSの反応
軽率な発言とみる寄りの声
地元で「原因はこちら側」と言ったのは、中国側の主張をそのまま代弁しているように見えると思う
中国外務省に「良識ある日本人の声」と持ち上げられたのは笑えない。発言が相手国にどう使われるか、元外相なら考えるべきだったと思う
岩屋氏への厚遇は高市政権への当てつけで、日本の世論を分断する狙いだと思う
対話を求めた発言とみる寄りの声
訪中で対話がつながりそうになっていたのだから、その流れは大事にすべきだと思う
課題があるからこそ、隣の大国である中国とは対話を続けるべきだという考えは理解できると思う
集め方:X(旧Twitter)で「岩屋 原因はこちら」「岩屋 毛寧」「岩屋 訪中 対話」などで検索し、2026年9月27日〜10月23日の日本語投稿を確認しました。発言を批判する投稿が大半で、岩屋氏を擁護する投稿は少数でした
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。
③ ポイント整理
意見が一致している点
- 高市首相の答弁のあと、日中の政府間の対話が途絶えていること
- 岩屋氏が「原因はこちら側が作っている」と述べ、それを中国外務省が日本批判に使ったこと
意見が分かれている点
- 日中関係悪化の「原因」を日本側にあると公に言うことは、国益を損なうのか
- 中国の「厚遇」に応じて訪中し、要人と会うことは関係改善の糸口になるのか、中国に利用されるだけなのか
今後の注目点
- 日中の政府間対話が再開されるか
- 11月に中国・広東省で開かれるAPEC首脳会議に向けた日中の動き
岩屋氏が10月1日と2日に「原因はこちら側が作っている」という趣旨の発言をし、中国外務省が10月12日の会見でこれを評価して「責任は完全に日本側にある」と述べたのは事実です。一方で岩屋氏は、高市首相の答弁が不信を招いたという意味で使い、中国側にも対話の窓口を開くよう求めていました。中国外務省の会見では、この部分には触れていません。 軽率な発言とみる立場は、元外相の言葉が中国の宣伝に使われたことを問題にしています。対話を求めた発言とみる立場は、発言の全体を見れば日中双方に歩み寄りを求めたものだと考えています。
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※ 記事を読んだ方が自由に答える読者アンケートで、統計的な世論調査ではありません。当サイトとしての賛否を示すものでもありません。
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いろいろな立場の人と一緒に考えるきっかけに。