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70歳以上の医療費窓口負担、「原則3割」は公平か酷か 年末の工程表へ議論が始まる

70歳以上の医療費の窓口負担を見直す議論が、厚生労働省の審議会で本格的に始まりました。現役世代と同じ「原則3割」を求める日本維新の会・財務省と、受診控えを心配する日本医師会や高齢者団体など、それぞれの主張をまとめました。

病院(イメージ)
イメージ写真:社会医療法人厚生会中部国際医療センター / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

この記事のポイント

  • 病院の窓口で払う医療費の自己負担は、69歳までが3割、70〜74歳が原則2割、75歳以上が原則1割です。年収が単身で約383万円以上など「現役並み所得」の人は、年齢にかかわらず3割です。
  • 日本維新の会と財務省は、70歳以上も現役世代と同じ「原則3割」にするよう求めています。自民党は慎重で、7月の骨太方針では「原則3割」の明記は見送られ、年末までに見直しの「改革工程表」をつくることになりました。
  • 10月1日、厚生労働省の社会保障審議会・医療保険部会で議論が本格的に始まりました。3割になる所得の基準の引き下げや、2割・1割の対象年齢の引き上げなどが検討されています。
  • 75歳以上で3割を払う人の医療費には税金が入らず、現役世代が払う保険料(支援金)でまかなわれています。そのため「3割の人を単純に増やすと、かえって現役世代の負担が増えかねない」という指摘もあります。

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① 何が起きているのか

病院や診療所の窓口で払う医療費の自己負担を、70歳以上についてどこまで引き上げるか――。年末に向けて、政府・与党での議論が本格化しています。

いまの窓口負担

年齢 原則 一定以上の所得 現役並み所得
69歳まで(未就学児を除く) 3割 ― ―
70〜74歳 2割 ― 3割
75歳以上 1割 2割(単身で年収200万円以上など) 3割

※「現役並み所得」は、課税所得145万円以上(年収の目安は単身で約383万円以上、複数人世帯で約520万円以上)。この基準は2002年当時の現役世代の平均収入をもとにしています。

なぜ今、見直すのか

2025年度の医療費は約49兆2千億円で、5年連続で過去最高となりました。このうち75歳以上は約20兆3千億円で、1人あたりでは75歳未満の約3.8倍です。

75歳以上の医療費は、税金(公費)で約5割、現役世代の保険料からの支援金で約4割、75歳以上の保険料で約1割をまかなっています。2026年度の支援金は約7兆7300億円と見込まれ、2011年度の約1.5倍に増えています。

検討されている主な案

  • 3割負担になる「現役並み所得」の基準を引き下げ、対象者を増やす
  • 2割・1割の対象年齢を引き上げる(例:70〜74歳を3割に)
  • 外来の自己負担に月の上限を設けている「外来特例」の見直し
  • 税金(公費)の入れ方の見直し

※外来特例の上限(最大1万8000円)は、2026年8月に2万2000円、2027年8月に2万8000円へ引き上げることが、すでに決まっています。

これまでの流れ

時期 出来事
2025年10月 自民・維新の連立合意に「年齢によらない真に公平な応能負担の実現」
2025年12月 厚労省が、3割の年齢区分の見直しなどの例を審議会に示す
2026年4〜6月 財政審が「原則3割」を提言・建議
7月7日 自民・維新が社会保障改革の骨子で合意(「原則3割」は見送り、年末までに工程表)
7月21日 骨太方針を閣議決定
10月1日 医療保険部会で議論が本格化
年末 改革工程表の策定、2027年度予算編成

なお、2026年5月に成立した改正健康保険法で、75歳以上の負担割合の判定に株の配当などの金融所得も反映されることになりました(施行は公布から5年以内)。

② それぞれの意見

各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。

引き上げ推進派の意見

  1. 窓口負担は「できる限り早く」現役世代と同じ3割を原則とすべきです。まず70〜74歳を原則3割にし、75歳以上も経過措置を設けたうえで3割にするべきです。外来の負担に上限を設ける「外来特例」も廃止すべきです。若い世代の手取りを増やすことを急ぐ必要があります(財政制度等審議会)。

  2. 日本維新の会は与党協議で、原則3割への段階的な移行を求めてきました。7月の合意は「原則3割」と明記されませんでしたが、斎藤アレックス政調会長は合意の文言を原則3割に「近い内容」と受け止め、年末に向けて主張を続ける考えを示しています。

  3. 75歳以上の大半が1割負担のままでは、改革の踏み込みは甘いといえます。年齢ではなく支払い能力に応じて負担する仕組みに切り替えるべきです。重い病気の人を保険で手厚く守り続けるには、外来を中心とした軽い医療の自己負担を増やさざるを得ません(日本経済新聞)。健康保険組合連合会(健保連)も、現役世代が納得できる水準への見直しを求めています。

慎重・反対派の意見

  1. 一律に3割へ引き上げるのは「非常に乱暴」です。高齢者は病気が長引きやすく、3割になれば負担が大きく膨らみます(日本医師会の松本吉郎会長)。10月1日の部会では、認知症の人と家族の会の副代表理事が「暮らしていけるのか大変危惧している」、日本退職者連合の事務局長が「拙速な制度変更は認められない」と述べました。

  2. 1人あたりの医療費は、60代後半で50万円以下、80代後半で100万円を超えます。「原則3割」の見送りは妥当です。3割の人が増えれば、税金が入らない分だけ現役世代の保険料が増えかねません。働けなくなる人生後半のリスクを現役期から分かち合うのが社会保障であり、世代間の対立をあおるべきではありません(朝日新聞)。

  3. 年収に占める患者負担の割合は、高齢者のほうが50代以下より3〜5倍高く、引き上げればはるかに不公平で重い負担になります。高齢者医療費に占める国庫負担の割合は1983年度の44.9%から下がっており、国の負担を増やすべきです(共産党の小池晃書記局長)。全国保険医団体連合会も、外来特例を廃止すれば住民税非課税の世帯でも年約24万円の負担になると試算して反対しています。

方向性は認めつつ、慎重な制度設計を求める立場

  1. 医療費は増え続けており、余裕のある高齢者に負担を求めることは一定理解できます。ただ、3割の人を増やすことを前提に議論を進めるのは危うく、後期高齢者医療制度そのものの見直しも含めて、現役世代・高齢者・国の負担のバランスを丁寧に検討すべきです。受診控えで病気が悪化すれば、かえって医療費が膨らむおそれもあります(福島民友新聞、神戸新聞)。

  2. 上野厚生労働相は「一律3割というのは現実的ではない」としつつ、見直しは「避けて通れない検討課題」との立場です。10月6日の会見では、外来特例、負担割合の区切りとなる所得、年齢の引き上げ、公費負担のあり方を検討し、「年末までに一定の結論」を出すと述べました。

背景を読む:それぞれの思惑

ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。

日本維新の会

「社会保険料を下げる」看板を守れるか

推測維新は2025年の参院選から「医療費の削減で現役世代の社会保険料を下げる」ことを看板に掲げてきました。連立を組む自民党との合意で「原則3割」が見送られたなかで、年末の工程表でどこまで具体的な数字を残せるかは、党の存在感に直結します。「近い内容」と受け止めて主張を続けるのは、支持層に成果を示し続ける必要があるからかもしれません。

推測のもとにした事実

自民党

高齢者の支持と現役世代の不満のはざまで

推測自民党は高齢者に支持が厚く、一律の負担増には慎重な声が根強くあります。一方で、連立相手の維新や財務省は引き上げを強く求めています。「3割の対象となる所得の線を下げる」「年齢の区切りを上げる」といった部分的な見直しは、高齢者全体の反発を避けつつ「改革した」と示せる落としどころとして検討されているのかもしれません。

推測のもとにした事実

財務省・健保連

「3割」を広げても、現役世代の保険料が下がるとは限らない

推測75歳以上で3割を払う人の医療費には税金が入らず、現役世代の支援金でまかなわれています。財務省は国の支出を抑えたい一方、健康保険組合の側は「3割を広げるなら税金も入れてほしい」と求めています。同じ「引き上げ推進」でも、税金と保険料のどちらの負担を減らしたいのかで思惑が違い、年末にはこの綱引きが焦点になりそうです。

推測のもとにした事実

日本医師会

受診が減れば、医療機関の経営にも響く

推測窓口負担が上がれば、受診の回数が減ると考えられています。医師会が反対するのは、高齢者の健康への懸念に加えて、医療機関の収入への影響もあるのかもしれません。2026年度の診療報酬はプラス改定でしたが、年末の予算編成では診療報酬と患者負担の見直しが同時に議論される見通しです。

推測のもとにした事実

世の中の声

世論調査

  • 健康保険組合連合会の「医療・介護に関する国民意識調査」(2026年1月、インターネット、20〜80代3000人)では、高齢者の窓口負担を将来的に「原則3割」とする案に賛成34.2%、反対29.9%でした。40代以下では賛成が反対を大きく上回る一方、60代以上では「わからない」と「反対」が約7割を占めました。2割負担の対象年齢を5歳引き上げる案は、賛成35.7%、反対22.5%でした(最も影響を受ける70代では賛成31.9%、反対31.6%)。保険者の団体が実施した調査である点に注意が必要です。

    日本医事新報(健保連・国民意識調査)
  • 日経メディカルが医師を対象に行った調査(2026年6月、8138人)では、3割負担の高齢者を増やす方針に「賛成」「どちらかと言えば賛成」が合わせて64%、反対は合わせて20%でした。報道機関による一般向けの全国世論調査は、確認できた範囲では見当たりませんでした。

    日経メディカル(医師調査)

SNSの反応

引き上げ推進寄りの声

  • 高齢者は1割負担だから気軽に病院へ行けて、待合室はいつも混んでいる。その費用を支えているのは、保険料を払っている現役世代だと思う

  • 窓口で払う額が少なすぎると、必要かどうかを考えずに受診してしまう。負担に応じた「値段」の感覚は大事だと思う

慎重・反対寄りの声

  • 年金しか収入がない人に3割を求めるのは酷だと思う。現役世代と同じ割合でも、払える力はまったく違う

  • 1割から3割になったら、一人暮らしでも年20万円を超える負担増になる人がいるらしい。通院をやめる高齢者が出てしまうのでは

その他の声

  • 高齢者か現役世代か、という対立に持ち込むべきではないと思う。誰でもいつかは年をとるし、税金をどう入れるかの議論も必要

集め方:X(旧Twitter)で「窓口負担 3割 高齢者」「70歳以上 3割」(いいね20件以上・話題順)と、「窓口負担」×「現役世代 OR 病院 OR 年金」で検索し、2026年9月〜10月10日の日本語投稿を確認しました。引き上げに賛成・反対の双方の投稿がありました。特定の世代や個人を中傷する投稿は除いています
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。

③ ポイント整理

意見が一致している点

  • 医療費が増え続けるなかで、制度を長く続けるために何らかの見直しが必要なこと
  • 所得の低い高齢者が、負担の重さから必要な受診をあきらめないよう配慮が必要なこと
  • 年齢だけでなく、支払い能力に応じた負担という考え方(連立合意の「年齢によらない真に公平な応能負担」)

意見が分かれている点

  • 70歳以上も「原則3割」とすべきか、所得の高い人に絞った見直しにとどめるべきか
  • 外来の負担に上限を設ける「外来特例」を廃止すべきか
  • 3割の対象を広げた場合に、税金を追加で入れるべきか(入れなければ現役世代の保険料が増えかねない)
  • 受診控えによる健康への影響をどこまで重く見るか

今後の注目点

  • 年末までにまとまる「改革工程表」と、2027年度予算編成での結論
  • 社会保障審議会・医療保険部会での具体案(所得の基準、年齢の区切り)
  • 3割の対象拡大に合わせて公費を入れるかどうか
  • 法改正が必要な場合の法案提出の時期

医療費の増加に合わせて見直しが必要だという点や、低所得の高齢者への配慮が必要だという点では、各立場の考えに重なりがあります。対立の中心は、70歳以上も現役世代と同じ「原則3割」を目指すのか、所得の高い人に絞った見直しにとどめるのかです。 ただし、3割の人を増やせば現役世代の保険料が下がるとは限らず、税金をどう入れるかによって結果が変わります。「世代間の公平」と「高齢期の安心」をどう両立させるか、年末の工程表で具体的な答えが問われます。

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