防衛費はどこまで増える? 年末の安保3文書改定で問われること
政府は年末までに安保3文書を改定し、防衛力の「抜本的強化」を打ち出す方針です。防衛費をどこまで増やすのか、財源はどうするのか、原子力潜水艦や非核三原則まで広がる議論を整理しました。
この記事のポイント
- 政府は年末までに、国の安全保障の基本方針である「安保3文書」を改定する方針です。防衛費をさらに増やす新たな目標や、その財源が焦点です。
- 来年度の防衛費は、金額を示さない「事項要求」を含めて10兆円規模になるとの見方があります。GDP比3.5%を目標にすれば年20兆円を超える計算で、財源はまだ示されていません。
- 自衛隊への原子力潜水艦の導入や、非核三原則の「持ち込ませず」に緊急時の例外を書き込む案も浮上しています。
- 年末には、消費税減税の財源と防衛費の財源を同時に決めなければならず、「お金をどう工面するか」も大きな争点です。
① 何が起きているのか
政府は、国の安全保障の基本方針をまとめた**「安保3文書」を年末までに改定**する方針です。首相は10月5日の所信表明演説で「平和は、願うだけで実現するものではありません」と述べ、防衛力の抜本的な強化を打ち出しました。
安保3文書とは
| 文書 | 中身 |
|---|---|
| 国家安全保障戦略 | 外交・防衛を含む安全保障の基本方針 |
| 国家防衛戦略 | 防衛の目標と、それを達成する方法 |
| 防衛力整備計画 | 5年間で何を整備し、いくら使うか |
今の3文書は2022年末に決められたもので、2023〜27年度の5年間で43兆円、2027年度に防衛関連費をGDP比2%にする目標を掲げていました。高市首相は2025年10月、この3文書の改定を前倒しすると表明し、2%の目標も2025年度に前倒しで達成したとしています。3文書は閣議決定で決まり、国会の議決は必要ありません。
防衛費はいくらか
- 2026年度予算:9兆353億円で、初めて9兆円を超えて過去最大
- 2027年度の概算要求:8兆8908億円。ただし、3文書の改定を前提に金額を示さない「事項要求」が150件以上あり、最終的に10兆円規模になるとの見方があります
- 新たな目標:GDP比3.5%を検討しているとの報道があり、その場合は年20兆円を超える計算です。政府は「金額ありきではなく中身で決める」としています
- 5年間の総額:共同通信によると、新たな防衛力整備計画の素案では無人機などへの投資が大きく膨らみ、政権幹部は5年間で70〜80兆円規模になりうると見ています(今の計画は43兆円)
何が検討されているのか
- 原子力潜水艦:3文書に、自衛隊への原潜導入の検討方針を盛り込む案が浮上しています。小泉防衛相は「議論の必要性は国民も理解するところではないか」と述べています
- 非核三原則:三原則そのものは維持しつつ、「持ち込ませず」について、緊急時には核兵器を積んだ艦船の一時寄港を認めうるという例外を書き込む案が浮上しています
- 無人機・AI:攻撃用の無人機や、AIで自衛隊の指揮を支えるシステムの導入
すでに実行されたものもあります。3月には射程約1000kmの長射程ミサイルが熊本県の駐屯地に配備され、4月には殺傷能力のある武器の輸出を原則として解禁しました。
財源はどうなっているか
今の43兆円の計画のために、法人税とたばこ税の増税が2026年4月に始まり、所得税の増税も2027年1月から始まります。しかし、さらに増やす分の財源は、政府・与党ともまだ示していません。年末には、消費税減税の財源もあわせて決める必要があります。
② それぞれの意見
各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。
推進派の意見
平和は、願うだけで実現するものではありません。防衛力を抜本的に強化するため、年末までに安保3文書を見直します(首相、10月5日の所信表明演説)。
中国・ロシア・北朝鮮の軍備拡張で、日本への威圧は強まる一方です。無人機やAIの活用など戦い方も変わっており、安全保障戦略の見直しと防衛力の強化は急務です。政府は国民の理解を得ながら防衛費を増やすべきで、その際は精緻な査定で真に必要な中身にし、赤字国債に頼らない安定財源を示すことも大切です。撤退が相次ぐ防衛産業の基盤も立て直さなければなりません(読売新聞)。
自民党は6月の提言で、NATOや韓国の3.5%、オーストラリアの3%といった各国の目標を例に挙げ、「5年以内の防衛力の変革」に必要な予算の確保を求めました。維新はさらに踏み込み、中長期的にGDP比3%以上を目安とし、原子力潜水艦の早期導入や、非核三原則の「持ち込ませず」の見直しの検討を求めています。小泉防衛相も、原潜保有について「議論の必要性は国民も理解するところではないか」と述べています。
慎重派の意見
金額を示さない「事項要求」がこれだけ多いと、費用対効果や優先順位を吟味できません。物価高と円安で装備品の価格は4〜7割上がり、今の計画どおりに買えていない一方、使い切れずに余った「不用額」は毎年1千億円を超えています。まず5年43兆円の今の計画を徹底的に検証すべきです。食料品の消費税を下げながら、国民にさらなる負担を求めるのかも問われます(朝日新聞)。
「増額ありき」で予算が水膨れする懸念が拭えません。2023・24年度には繰り越しと不用額が計1兆円規模にのぼり、本当に必要な額を積み上げたのか疑問です。自衛官が足りないなかで装備だけ増やしても使いこなせるとは限らず、相手のミサイル基地などをたたく反撃能力には、国際法が禁じる先制攻撃になるおそれもあります(毎日新聞)。日本経済新聞も、財源があいまいなままでは金融市場の信認を損ないかねないと警告しています。
防衛力の整備は重要ですが、非核三原則の堅持を強く求めます。3文書の改定には、具体的な財源の確保策や国民負担のあり方も含めた説明責任があり、国会で追及していきます(公明党・岡本代表)。共産党は、防衛費の突出を批判し、予算の組み替えを求めています。
背景を読む:それぞれの思惑
ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。
財務省
消費税減税と防衛費、「財源の綱引き」の行方
推測年末は、財務省にとって近年まれに見る厳しい季節になりそうです。消費税減税の穴埋めと、防衛費の大幅な上積みを、どちらも「赤字国債に頼らず」まかなうのは容易ではありません。財務省としては、新しい数値目標を3文書にはっきり書き込ませず、増額の幅をできるだけ抑えたいところでしょう。自民党の提言が、3〜3.5%といった数字を各国の例として挙げるだけにとどめたのも、財源の裏付けがないことへの配慮と読めます。
推測のもとにした事実
- ・GDP比3.5%を目標にすると、防衛関連の経費は年約24兆円となり、今より約13兆円増える(野村総合研究所の試算)。消費税減税による減収は2年で約10兆円規模とされる野村総合研究所(木内登英氏)(9/15)時事通信(閣議決定)(8/5)
- ・首相は所信表明演説で、消費税減税の財源を「特例公債(赤字国債)に頼らずに確保する」と述べた首相官邸(所信表明演説)(10/5)
- ・自民党の提言は、3〜3.5%を掲げる各国の例を示すにとどめ、数値目標は明記しなかった秋田魁新報(共同・自民党の提言)(6/9)
高市首相
防衛費の「増税」を語らない理由
推測消費税減税を政権の看板に掲げながら、防衛のための新たな増税を打ち出せば、矛盾していると受け止められかねません。首相自身、2022年には当時の岸田政権の防衛増税方針を批判していました。来春の統一地方選や2028年の参院選を前に「増税」という言葉はできるだけ封印し、財源の議論は年末の予算編成やその先へ先送りしたい――そんな計算が働いているのかもしれません。
推測のもとにした事実
- ・高市氏は2022年、岸田首相(当時)の防衛増税方針を批判していた時事通信(英語版)
- ・防衛増税のうち所得税分は2027年1月から始まるが、復興特別所得税を同じ率だけ下げるため、当面の負担は変わらない。新たな数値目標の財源として追加の増税を示した報道は見当たらない北海道新聞(防衛増税)(12/19)熊本日日新聞(共同・与党の提言)(6/24)
政府・米国
「主体的判断」と「3.5%」の関係
推測政府が「金額ありきではなく中身から積み上げる」「主体的な判断」と繰り返すのは、「アメリカに言われたから増やす」という印象を避けたいからでしょう。ただ、米国は同盟国にGDP比3.5%を求めており、日本でも3.5%を検討しているとの報道があります。最終的に3.5%前後に落ち着けば、「主体的に積み上げた結果が、たまたま米国の要求と一致した」という形になるのかもしれません。
推測のもとにした事実
- ・トランプ米政権は同盟国に、防衛費をGDP比3.5%に引き上げるよう求めている朝日新聞 社説(9/2)
- ・日本政府がGDP比3.5%を新たな目標として検討していると、米ブルームバーグ通信が関係者の話として報じた(政府は公式には認めていない)Taipei Times(ブルームバーグの転載)(9/16)
- ・5月の日米防衛相会談で米側から日本の防衛費への言及があったが、小泉防衛相は「特定の金額や結論を念頭に置いたやりとりはしていない」と説明した秋田魁新報(共同・日米防衛相会談)(5/30)
防衛省・防衛産業
増額で潤うのは誰か
推測防衛費が増えて最も直接的に恩恵を受けるのは、装備品をつくる防衛産業です。採算が合わずに撤退する企業が相次いできた業界を、国が出資や工場の取得で支える仕組みづくりは、防衛省にとっても長年の悲願でした。今回の増額は、安全保障政策であると同時に、防衛産業を立て直す「産業政策」の側面も強まっていると言えそうです。
推測のもとにした事実
- ・三菱重工業の2026年3月期の受注高は7兆6536億円(前期比19.5%増)。航空・防衛・宇宙部門の事業利益は1515億円(同52%増)だったAviation Wire(三菱重工の決算)(5/14)
- ・来年度の概算要求には、国が弾薬などの製造施設を取得して運営を民間に委ねる制度や、防衛部門を再編する企業に政府が出資する制度の創設が盛り込まれた読売新聞 社説(9/7)
日本維新の会
原潜や「核」で自民より踏み込む理由
推測維新は、原子力潜水艦の早期導入や「持ち込ませず」の見直しなど、自民党が公には言いにくいテーマで一歩先を行く主張をしています。支持率が低迷するなか、「現実路線の安全保障」を前面に出して保守層にアピールしたい狙いがありそうです。結果として、維新が先に打ち上げた案を政府が検討に取り込む流れになっており、自民党にとっても、反応を探る「観測気球」として都合がよい面があるのかもしれません。
推測のもとにした事実
- ・維新は6月の提言で、原潜の早期導入や「持ち込ませず」の見直しの「現実的検討」を求めた熊本日日新聞(共同・与党の提言)(6/24)
- ・政府内で、3文書に原潜導入の検討方針を盛り込む案が浮上。自民党の提言は具体的な動力に触れなかった一方、維新は「早急に原潜を導入すべきだ」と求めていた読売新聞(原潜導入の検討案)(10/7)
- ・9月のNHK世論調査で、維新の支持率は2.3%NHK(9月の政党支持率)(9/14)
公明党
「非核三原則の堅持」を前面に出す理由
推測与党だった2022年には、防衛費の総額を絞り込んだことを成果として語っていた公明党ですが、連立を離れた今は外から政権をただす立場です。「平和の党」の原点である非核三原則の堅持は、支持者をまとめる旗印になり、世論の多数も堅持を支持しています。政権との対立軸として打ち出しやすいテーマだと言えるでしょう。
推測のもとにした事実
- ・岡本代表は10月4日の党大会で、防衛力整備の重要性を認めつつ、非核三原則の堅持を「強く求めます」と述べた公明新聞(岡本代表あいさつ)(10/4)
- ・公明党は、2022年の3文書策定の際、「GDP比2%ありきでない積み上げ」を主張し、48兆円とされた防衛費の総額を43兆円に絞ったと説明している公明党(解説ページ)
- ・NHKの8月の世論調査で、非核三原則を「守るべきだ」は59%、「見直すべきだ」は33%NHK(世論調査)(8/11)
世の中の声
世論調査
自衛隊を「増強した方がよい」と答えた人は45.2%で、過去最高でした。「今の程度でよい」は49.8%、「縮小した方がよい」は2.2%でした(内閣府「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」、2025年11〜12月実施。当サイトは時事通信の英語転載記事で確認しています)。
Adnkronos(時事通信の転載)(1/9)非核三原則を「守るべきだ」が59%、「見直すべきだ」が33%でした(NHK、2026年8月)。
NHK(世論調査)(8/11)食料品の消費税減税で国の財政に「不安を感じる」人は71.7%にのぼりました(共同通信、2026年8月)。
熊本日日新聞(共同通信の世論調査)
SNSの反応
推進寄りの声
領空や領海の侵犯、予告なしのミサイル発射を繰り返す国と対等に話し合うには、やっぱり防衛力が必要だと思う
安全保障の環境がここまで変わったんだから、現実に合わせて防衛力を見直すのは当然でしょ
原子力潜水艦は抑止力の切り札になる。導入を急いでほしい
慎重寄りの声
防衛費ばかり増やして、子どもや暮らしへの支援が後回しになってない?
抑止力と言いながら、結局アメリカから武器を買わされているだけでは。長射程ミサイルを置けば、かえって攻撃の標的になると思う
原潜はコストが高い割にメリットが少ない。そのお金をドローンなどに回した方がいい
その他の声
防衛相が核兵器まで「タブーなく議論」と言うのは、さすがに怖い
武器輸出のルール緩和とか、大きな決定が国民の知らないうちに次々と決まっていくのが不安
集め方:X(旧Twitter)で「防衛費 OR 安保3文書 OR 防衛増税」(いいね30件以上・話題順)と、「防衛力」「原潜」「抑止力」に「必要」「賛成」などを組み合わせた検索を行い、2026年9月15日〜10月10日の日本語投稿 約30件を確認しました
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。
③ ポイント整理
意見が一致している点
- 日本の周りの安全保障環境が厳しくなっているという認識
- 赤字国債に頼らない安定した財源が必要なこと(首相も、読売・朝日・日経の各紙も同じ立場)
- 予算の中身や費用対効果を厳しく吟味する必要があること
意見が分かれている点
- 防衛費をどこまで増やすか(GDP比3.5%などの数値目標を置くべきか)
- 財源をどうするか(増税か、歳出の見直しか、国債か)
- 原子力潜水艦の導入や、核の「持ち込み」の例外にまで踏み込むべきか
- 長射程ミサイルによる反撃能力の是非
今後の注目点
- 政府の有識者会議がまとめる提言の中身
- 年末に閣議決定される3文書で、数値目標・原潜・非核三原則がどう書かれるか
- 消費税減税と防衛費、2つの財源が年末の予算編成でどう決着するか
このテーマは、防衛力の強化を急ぐ政府・与党と保守系の読売新聞に対し、リベラル系の朝日・毎日新聞や公明党が予算の膨張や非核三原則の揺らぎに慎重、という構図です。経済紙の日経新聞は、財源の面から慎重な立場をとっています。 「防衛力を強化する必要がある」という認識自体は多くの立場で共有されており、対立の中心は「どこまで、何に、どのお金で」です。3文書は国会の議決を経ずに閣議で決まるため、年末までの議論の行方がそのまま国の方針になります。