安保上重要な土地の取得を「許可制」へ 国を守る備えか、行き過ぎた私権制限か
政府は、自衛隊基地などの周辺や無人の国境離島の土地を買う際に、国の許可を必要とする重要土地等調査法の改正案を、臨時国会に提出する方針です。安全保障のために取得の段階から規制すべきだとする立場と、財産権の制限や運用のあいまいさを懸念する立場の主張をまとめました。

この記事のポイント
- 2022年に全面施行された重要土地等調査法は、自衛隊基地などの周辺の土地の利用状況を調べ、妨害行為をやめさせる法律で、土地の「取得」そのものは制限していませんでした。
- 政府の有識者会議は10月2日、ドローン攻撃などへの対応が特に必要な施設の周辺と無人の国境離島で、国籍を問わず土地の取得を「事前の許可制」にするよう提言しました。外国政府の関係者などによる取得は原則として認めません。
- 皇居・国会議事堂・首相官邸なども、調査などの対象となる重要施設に加える方針です。政府は改正案を臨時国会に提出する方針ですが、10月12日時点で国会への提出は確認できていません。
- 2021年の法制定時には、日本弁護士連合会や立憲民主党、共産党が財産権やプライバシーの侵害を懸念して反対しました。今回の改正案に対する野党や日弁連の正式な見解は、まだ出ていません。
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読者アンケート・回答 件※ 統計的な世論調査ではありません。
① 何が起きているのか
今の法律と改正案
| 項目 | 今の法律(2022年全面施行) | 改正案(有識者会議の提言) |
|---|---|---|
| 対象 | 重要施設の周囲おおむね1000mと国境離島など(注視区域) | 新しい脅威への対応が特に必要な施設の周辺と、無人の国境離島 |
| 取得 | 制限なし(特に重要な区域では200㎡以上の売買を事前に届け出) | 事前の許可制(面積を問わない)。日本人も対象。相続は対象外 |
| 原則不許可 | ― | 外国政府やその活動に重要な影響力を持つ者、外国軍の関係者、外国政府への協力義務を負う者と、それらが支配する法人 |
| 実効性 | 妨害行為への勧告・命令 | 無許可の取得は無効。立入調査を新設 |
| 重要施設 | 防衛関係施設、原子力施設など | 皇居・国会議事堂・首相官邸なども追加 |
数字で見る土地取得の実態
- 注視区域での取得(2024年度、内閣府):11万3827件のうち、外国人・外国系の法人は3498件(3.1%)。国・地域別では中国(香港を含む)が47.5%で最多
- 妨害行為への勧告・命令:2023・24年度ともゼロ
- 全国の土地(内閣官房):外国人と推定される人の所有は全体の0.12〜0.46%
各国の例
- 米国:対米外国投資委員会(CFIUS)が、軍事施設周辺などの取引を審査
- 英国:自国民も含めて取引を審査し、中止を命じられる
- オーストラリア:安全保障に関わる土地の取得を事前に審査・承認
② それぞれの意見
各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。
推進派の意見
ようやくここまで来た。しっかりと政府として措置、対応をしたい(高市首相、10月1日に自民党の提言を受け取って)。小野田紀美担当相も、改正案を速やかに国会に提出すべく作業を加速するとしています。自民党の提言は、国家の安全に直結する土地は取得後の利用規制だけでは足りず、取得の段階から規律が必要だとしました。
ドローンなどを使った新しい攻撃の脅威があり、重要な施設の周辺や無人の国境離島をどう守るかが問われています。提言は、日本人も含めて国籍を問わず審査し、外国政府やその影響下にある者などには原則として許可しないとしました。「脅威の主体は外国人そのものではない」と明記し、財産権や平等原則に照らしても許される規制だと整理しています(有識者会議の提言)。
米国や英国、オーストラリアなども、安全保障上重要な土地の取引を国が事前に審査する仕組みを持っています。日本維新の会、国民民主党、参政党も土地取得の規制強化を掲げています。2025年7月の産経新聞・FNNの世論調査では、外国人の不動産取得を「規制すべきだ」が77.2%にのぼりました。
慎重派の意見
2021年の法制定時、日本弁護士連合会は、規制の対象や調べる情報の範囲を政令に任せていて、思想・良心の自由やプライバシー、財産権を侵害するおそれがあると反対しました。あいまいな要件で刑罰を科すことは罪刑法定主義に反するおそれがあるとも指摘しています。立憲民主党と共産党も、私権の制限につながるとして反対しました(いずれも2021年当時。今回の改正案への日弁連の声明は10月12日時点で出ていません)。
規制を強める根拠(立法事実)がどこまであるのかも問われます。内閣府の調査では、注視区域で外国人・外国系の法人が取得した土地は全体の3.1%で、妨害行為に対する勧告や命令は2023・24年度ともゼロでした。有識者会議の提言自身も、区域内で機能を妨げる行為の例は見られないとしています。
脅威は土地を「持つこと」ではなく「使い方」から生じるので、国籍を問わず利用を規制すれば足りるという意見があります(福井秀夫氏)。日本の法人を通せば規制を逃れられ、実効性に課題があるとの指摘もあります(板垣勝彦氏)。不動産業界からも、私的な財産の処分を制限することは慎重に考えるべきだという声が出ています(不動産協会、2025年)。
背景を読む:それぞれの思惑
ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。
政府・自民党
2021年に見送った「取得規制」に踏み込めた理由
推測2021年に成立した法律には、土地の取得そのものの規制は盛り込まれませんでした。その後、自民党は日本維新の会と連立を組み、連立合意に土地取得規制の強化を盛り込みました。連立相手が変わったことが、今回の踏み込みを後押ししたのかもしれません。
推測のもとにした事実
- ・自民と維新の連立合意書に「外国人及び外国資本による土地取得規制を強化する法案を策定」と明記された衆議院調査局「外国人による不動産取得に関する整理」(2/26)
- ・2021年の法律は、外国人を含めて土地の取得そのものは制限していない衆議院調査局「外国人による不動産取得に関する整理」(2/26)
有識者会議
なぜ「外国人だけ」ではなく「国籍を問わず」なのか
推測日本は国際的な約束(GATS、サービス貿易に関する一般協定)で、外国人の不動産取得を制限する留保をしていません。国籍で差をつける規制は、この約束に反するおそれがあります。日本人も含めて審査する形にしたのは、国際約束と両立させるための工夫とみられます。
推測のもとにした事実
- ・GATSで不動産取得の留保をしていないため、国籍で差をつける規制は抵触するおそれがある衆議院調査局「外国人による不動産取得に関する整理」(2/26)
- ・提言は、国籍で差別しないので内国民待遇・最恵国待遇には反しないと解されるとした有識者会議「安全保障上重要な土地等の取得等に関するルールの在り方について」提言(10/2)
世の中の声
世論調査
外国人の不動産取得について、2025年7月の産経新聞・FNNの調査で「規制すべきだ」77.2%、「規制すべきでない」17.0%。同月のJNNの調査では、外国人の入国管理や不動産取得の「規制を強化すべき」が78%でした(許可制そのものの賛否を聞いた調査は見当たりませんでした)。
衆議院調査局「外国人による不動産取得に関する整理」(2/26)
SNSの反応
推進寄りの声
ドローンなどの新しい攻撃が現実の脅威になっている。基地や国境の島の周りの土地のルール作りが着実に進んでいるのはよいことだと思う
その他の声
「重要な土地」に限らず、日本の土地はどこも大切だと思う。すでに外国資本に買われた土地はどうするのかも知りたい
集め方:X(旧Twitter)で「重要土地」×「許可制 OR 規制」(いいね50件以上・話題順)と、「重要土地」×「私権 OR 懸念 OR 監視 OR 財産権 OR 住民」(いいね10件以上)で検索し、2026年9月20日〜10月12日の日本語投稿を確認しました。規制強化を歓迎し、さらに強い規制を求める投稿が大半で、財産権などへの懸念を示す一般の投稿は、確認した範囲ではほとんど見られませんでした。特定の国籍や民族への偏見を含む表現は除いています
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。
③ ポイント整理
意見が一致している点
- 重要な施設の周辺で、妨害行為に備える仕組みが必要なこと(2021年の法律自体には多くの党が賛成しました)
- 外国人を排除すること自体が目的であってはならないこと(提言自身も明記しています)
意見が分かれている点
- 利用の規制にとどめず、土地の取得そのものを許可制にすべきか
- 規制を強める根拠(立法事実)が十分にあるか
- 許可・不許可の基準や区域の決め方が、あいまいにならないか
- 財産権の制限として、どこまでが許されるか
今後の注目点
- 改正案が閣議決定され、臨時国会に提出されるかどうか
- 許可制の対象となる区域がどれだけ指定されるか
- 野党や日本弁護士連合会が、改正案にどのような見解を示すか
重要な施設を妨害行為から守る仕組みが必要だという点では、多くの立場が一致しています。分かれているのは、「土地を買う段階から国が許可するところまで踏み込むべきか」です。 推進派は、ドローンなどの新しい脅威や各国の規制を挙げて、取得段階での審査が必要だと主張します。慎重派は、これまで妨害行為の例が確認されていないことや、財産権の制限、運用のあいまいさを問題にしています。改正案の条文と国会審議で、許可の基準がどこまで明確になるかが焦点です。
④ その後どうなった?
この記事の公開後に出た結果や、大きな動きを追記しています。
改正案の全容が判明、無許可の取引に「3年以下の拘禁刑」
改正案では、ドローン攻撃などで機能が大きく損なわれるおそれがある施設の周囲約1000メートルと無人の国境離島を「規制区域」とし、区域内の土地の所有権を移すには国の事前許可が必要になります。許可のない取引は無効で登記も受け付けず、無許可で取引した場合は3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金が科されます。外国の政府や政党、外国軍の関係者、外国政府の情報収集に協力する義務を負う者などは原則として取得が認められず、こうした者に支配された法人には、国が1年以内に第三者へ譲渡するよう命じ、従わなければ裁判所に競売を申し立てます。盗聴や電波妨害が疑われる場合の立ち入り調査権も新たに設けます。 自民党は13日の合同会議で改正案を大筋で了承しました。政府は10月下旬にも閣議決定し、臨時国会に提出する方針です。
改正案を閣議決定、外国政府や軍の関係者の取得は原則認めず
政府は23日、重要土地等調査法の改正案を閣議決定し、衆院に提出しました。自衛隊や海上保安庁の施設のうちドローン攻撃に弱いと判断した施設の周囲約1000メートルと、無人の国境離島を新たに「規制区域」とし、土地の取引に国の事前許可を義務づけます。政府職員による立ち入り調査の制度も設けます。 規制は条約との整合性から国籍を問わず一律にかけますが、外国政府や外国軍の関係者、外国政府との契約で協力義務を負う人などの取得は原則として許可しません。無許可の所有権移転は登記を認めず無効とし、違反者には3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金を科します。面積の要件は設けず、取得後に不許可の要件に当たった場合は、国が1年以内の譲渡を命じたり競売を申し立てたりできます。今国会での成立を目指します。
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