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「スパイ防止法」へ有識者会議が始動 国を守る盾か、市民を見張る目か

政府は9月、インテリジェンス(情報収集・分析)機能の強化に向けた有識者会議を立ち上げ、外国勢力の不当な干渉を罰する新しい法律を2027年の通常国会に出すことを目指しています。必要な法整備だという推進派と、監視社会につながると心配する慎重派、それぞれの主張をまとめました。

この記事のポイント

  • 7月31日に、政府の情報活動の司令塔となる「国家情報会議」と、事務局の「国家情報局」(約730人)が発足しました。
  • 政府は9月28日、インテリジェンス機能の強化を議論する有識者会議(17人)の初会合を開きました。高市首相は「喫緊の課題」とし、国家情報会議の設置は「改革の第一歩に過ぎない」と述べました。
  • 自民党の提言には、外国勢力の不当な干渉を罰する「外国干渉防止法」、外国のためにロビー活動などをする人の登録義務、安全保障を目的とした通信傍受の拡大などが盛り込まれています。政府は2027年の通常国会への法案提出を目指していて、今の臨時国会には出ていません。
  • 「スパイ」の定義や、市民の監視につながらないための歯止めをどうするかが、最大の争点です。

① 何が起きているのか

「スパイ防止法」をめぐる議論が、政府の有識者会議の発足で本格的に始まりました。

何が起きているのか

時期 出来事
1985年 自民党議員が「スパイ防止法案」を提出するも、審議されないまま廃案
2013年 特定秘密保護法が成立
2024年 経済安全保障の情報を守る「セキュリティ・クリアランス法」が成立
2026年5月 国家情報会議設置法が成立
7月31日 国家情報会議と国家情報局が発足
8月 自民党が「外国干渉防止法」などを盛り込んだ提言を了承
9月28日 政府の有識者会議が初会合
2027年(予定) 通常国会に関連法案を提出する目標

何が検討されているのか

  • 外国干渉防止法(仮称):外国の情報機関の活動を手助けしたり、見返りを受け取ったりする「不当な干渉」に刑事罰を科す
  • 外国代理人の登録制度:外国政府などの指示でロビー活動などをする人に、登録を義務づける
  • 通信傍受の拡大:今は一部の犯罪捜査に限り裁判所の令状を取って行う通信傍受を、スパイ行為などにも広げる。将来的には、安全保障目的で令状なしの傍受を可能にすることも検討課題に
  • 対外情報庁の創設:海外での情報収集を担う組織を、2027年度末までにつくる

最近のスパイ事件の例

2026年1月、工作機械関連の会社の元社員と、在日ロシア通商代表部の元職員が、営業秘密を漏らした疑いで書類送検されました。今の日本には「スパイ行為」そのものを罰する法律がなく、こうした事件は不正競争防止法などで対応しているのが現状です。

② それぞれの意見

各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。

推進派の意見

  1. 中国・北朝鮮の軍事力の増強や、外国の情報機関員がからむ先端技術の流出、サイバー攻撃、世論を誘導する偽情報の拡散といった脅威が高まっています。国民の安全と国益を守るには、情報力の強化が欠かせません。外国による不当な干渉の防止策や、海外での情報収集の機能を、さらに強めていく必要があります(高市首相)。

  2. 外国勢力による企業の機密情報の窃取や、世論誘導を狙う工作が横行しています。外国政府の指示を受けて活動する人に「代理人」としての登録を義務づける制度は、米国に加え、ここ数年で豪州・英国・フランスにも広がっており、スパイ活動をけん制する狙いとして理解できます。ただし政府は、プライバシーや報道の自由への不安を解消する努力も欠かせません(読売新聞)。

  3. 自民党と連立を組む日本維新の会は、衆院選の公約で「スパイ防止法の制定」を掲げました。国民民主党や日本保守党も法整備を求め、参政党は独自の「防諜施策推進法案」を参院に提出しています。強い権限を与えるなら、国会への報告や監視の仕組みも合わせて整えるべきだという意見も、推進側から出ています。

慎重派の意見

  1. 刑罰の対象となる行為があいまいで、制度の作り方しだいでは、ふつうの企業活動や学術研究、報道まで萎縮させるおそれがあります。とくに通信傍受の拡大は、憲法が保障する通信の秘密やプライバシーを脅かしかねません。戦前には、スパイ防止などを名目にした法律のもとで重大な人権侵害が起きました。情報機関の暴走を防ぐ民主的な統制が欠かせません(毎日新聞)。

  2. 7月の国家情報局などの発足は組織の改革でしたが、今回は国家の権限そのものを強めるもので、市民の監視やプライバシー侵害への懸念が大きいとしています。国家情報会議設置法の審議で野党が求めた、国会の関与や第三者による監視、記録の保存などの仕組みに、政府は応じませんでした。そうした消極的な姿勢はもう許されません(朝日新聞)。

  3. 日本弁護士連合会は、監視の権限を厳しく限定し、独立した第三者機関でチェックするよう求めています。外国代理人の登録制度は、報道の取材源の秘匿や知る権利、弁護士の守秘義務を侵すおそれがあると指摘しています。共産党は1985年に廃案になった「スパイ防止法案」の事実上の復活だと批判しています。

「法律だけでは捕まらない」と見る専門家

  1. 情報セキュリティ大学院大学の小林良樹教授は、法律で要件を厳しくしても、それだけでスパイを捕まえられるわけではないと指摘し、情報活動の透明性を確保することの大切さを強調しています。

背景を読む:それぞれの思惑

ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。

高市首相

選挙では語らず、有識者会議で「お墨付き」を得る戦略?

推測首相はスパイ防止法を「国論を二分する」政策と位置づけ、長年の持論にしてきました。ところが2月の衆院選の街頭演説では触れなかったと報じられ、10月の所信表明演説でも「スパイ」という言葉は使いませんでした。反発の大きいテーマを前面に出すより、有識者会議で専門家の議論を重ね、「お墨付き」を得てから法案を出す――そんな慎重な段取りが見えます。

推測のもとにした事実

自民党・維新・参政党・国民民主党

「保守の看板」をめぐる主導権争い

推測スパイ防止法は保守層に響く看板政策で、維新・参政・国民民主・日本保守党もそろって法整備を掲げています。参政党や国民民主党はすでに独自の法案を国会に出しました。自民党にとっては、他党に「本家」の座を奪われる前に政府案をまとめたいという焦りもあるはずです。一方で、各党の案は中身が違い、「どこまで取り締まり、どう歯止めをかけるか」で協力と競争が入り混じることになりそうです。

推測のもとにした事実

警察庁・内閣情報調査室

組織とポストが広がる「情報官庁」の思惑

推測国家情報局は内閣情報調査室を格上げしたもので、初代の局長は警察庁出身です。自民党の提言は、さらに2027年度末までに海外での情報収集を担う「対外情報庁」をつくることも求めています。官僚組織にとって、組織や権限の拡大は大きな関心事です。新しい組織の主導権を警察と外務省のどちらが握るのかも、水面下の焦点になりそうです。

推測のもとにした事実

慎重派(野党・新聞・弁護士会)

法案ができる「前」に歯止めを勝ち取る狙い

推測慎重派の新聞や弁護士会は、法案の中身が固まる前の段階から、戦前の治安維持法や、最近報じられた自衛隊の情報部隊による市民の情報収集を引き合いに出して警鐘を鳴らしています。法律そのものを止めるのは難しいとしても、国会の関与や第三者機関によるチェックといった「歯止め」を、できるだけ多く条文に入れさせたい――そんな戦略と読むこともできます。

推測のもとにした事実

米国など同盟国

「機密を渡せる国」になるための条件

推測米英などの同盟国と高度な情報を共有するには、日本が「情報が漏れない国」だと信頼されることが前提になります。読売新聞が指摘するように、外国代理人の登録制度は米国・豪州・英国などに広がっています。同盟国と足並みをそろえ、情報共有の輪に深く入るための「入場券」という側面も、今回の法整備にはありそうです。

推測のもとにした事実

  • ・外国代理人の登録制度は、米国に加え、ここ数年で豪州・英国・フランスに広がった読売新聞 社説(9/29)
  • ・米国や英国、カナダ、豪州などはすでに同様の措置を設けており、日本の改革を歓迎していると報じられたnippon.com(10/8)

世の中の声

SNSの反応

推進寄りの声

  • 機密を外国に渡す行為を厳しく罰しない先進国は日本くらい。抑止力のある刑罰を定めないと意味がないと思う

  • 長年の懸案だったインテリジェンスの法整備が、やっと動き出したのは評価したい

  • 外国のスパイ工作から日本を守る法律が、ようやく形になり始めた

慎重寄りの声

  • 「スパイ」の定義があいまいなままでは、プライバシーや人権とのバランスが心配

  • 令状なしで通信を傍受できるようにするのは、憲法の「通信の秘密」に触れるのでは

  • 結局、監視の対象になるのは国民の側ではないか。どこまで信用していいのか分からない

集め方:X(旧Twitter)で「スパイ防止法 OR 国家情報局 OR インテリジェンス」(いいね50件以上・話題順)で検索し、2026年9月1日〜10月10日の日本語投稿を確認しました。推進・慎重の両方の投稿がありましたが、特定の国籍の人や団体を攻撃する投稿や、根拠のない陰謀論は除いています。このテーマについて大手報道機関が2026年に行った世論調査は、確認できた範囲では見当たりませんでした
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。

③ ポイント整理

意見が一致している点

  • 外国による技術流出やサイバー攻撃、偽情報などへの対策が必要なこと
  • 情報機関の権限を強めるなら、国会や第三者による監視など、民主的な統制が欠かせないこと(推進派の自民党提言も「国会による監督」を掲げています)
  • プライバシーや報道の自由への配慮が必要なこと(推進寄りの読売新聞も指摘しています)

意見が分かれている点

  • 「スパイ」や「不当な干渉」をどう定義し、どこまで罰するのか
  • 令状なしの通信傍受など、安全保障目的の監視をどこまで認めるか
  • 外国代理人の登録制度が、報道や研究、企業活動を萎縮させないか

今後の注目点

  • 有識者会議の議論と、年末から年度内にかけての「国家情報戦略」の策定
  • 2027年の通常国会に出される法案の中身(定義・罰則・監督の仕組み)
  • 「対外情報庁」の創設をめぐる議論

外国からの工作への備えが必要だという点では、推進派も慎重派もおおむね一致しています。分かれているのは、「国家の権限をどこまで強めるのか」と「その権限をだれが、どう見張るのか」です。 法案の中身はまだ白紙に近く、有識者会議の議論で形が決まっていきます。「スパイ」の定義の明確さと、国会や第三者による監視の仕組みが、この法律が「国を守る盾」になるか「市民を見張る目」になるかを分けるカギになりそうです。