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憲法・司法

「旧姓使用の法制化」か「選択的夫婦別姓」か 臨時国会で問われる結婚と姓のかたち

高市首相が意欲を示す「旧姓の通称使用の法制化」。政府は旧姓だけを記載する「単記」も検討しますが、自民党内には慎重論があり、参政党は独自の対案を提出しました。一方、野党などは選択的夫婦別姓の導入を求めています。三つに分かれた議論を整理しました。

この記事のポイント

  • 今の民法では、結婚した夫婦はどちらかの姓を名乗らなければなりません。夫の姓を選ぶ夫婦は約94%で、改姓するのは大半が女性です。
  • 高市首相は、旧姓を通称として使えるようにする「法制化」に意欲を示し、法相に「旧姓の単記(旧姓だけの記載)も可能とする基盤整備」を指示しました。ただ、政府は臨時国会に提出する予定の法案リストに入れておらず、自民党内にも慎重論があります。
  • 参政党は10月6日、戸籍には手を付けず、身分証での旧姓の単記は認めないとする独自の法案を参院に提出しました。
  • 立憲民主党や公明党、日本弁護士連合会などは、旧姓使用の法制化では根本的な解決にならないとして、選択的夫婦別姓の導入を求めています。

① 何が起きているのか

結婚したら、夫婦はどちらかの姓に合わせなければならない――。日本の民法750条が定めるこのルールをめぐって、議論が再び動いています。

今のルール

  • 結婚した夫婦は、夫か妻のどちらかの姓を名乗ります(民法750条)
  • 夫の姓を選ぶ夫婦は約94%(2024年)です
  • 法務省によると、結婚後に夫婦のどちらかの姓を選ばなければならない制度を採用している国は、把握している限り日本だけです
  • 住民票やマイナンバーカード、運転免許証、パスポートには、戸籍の姓と旧姓を併記できます。ただし、旧姓だけを記載する単記は原則として認められていません

三つの立場

立場 主な主張 主な支持者
旧姓使用の法制化(単記も検討) 旧姓を法律で使えるようにし、旧姓だけの記載も広げる 高市首相・政府、維新
旧姓使用の法制化(併記まで) 戸籍は変えず、本人確認書類では併記を基本に 参政党、読売新聞の社説
選択的夫婦別姓 民法を改正し、夫婦が同じ姓か別の姓かを選べるようにする 立憲民主党、公明党、日弁連、朝日・毎日の社説

これまでの流れ

時期 出来事
1996年 法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を答申(国会への法案提出には至らず)
2015年・2021年 最高裁が夫婦同姓の規定を合憲と判断。制度のあり方は国会で議論すべきとした
2025年 立憲・国民民主の別姓法案と維新の通称使用法案が、28年ぶりに国会で審議入り(その後、衆院解散で廃案)
2026年3月 政府の男女共同参画基本計画に「旧氏の単記も可能とする法制化を含めた基盤整備の検討」を明記
9月 首相が新しい法相に、単記も可能とする基盤整備を指示
10月1日 政府が臨時国会の提出予定法案から旧姓使用法案を外し「検討中」に
10月6日 参政党が独自の旧姓使用拡大法案を参院に提出
10月9日 首相が参院の代表質問で、法制化への意欲を改めて示す

② それぞれの意見

各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。

旧姓使用法制化派の意見

  1. 旧姓の通称使用を法制化すれば、社会生活で不利益を感じる人を減らすことができます。ただし、厳格な本人確認に使う書類などには、戸籍上の姓との併記を求める検討も必要です(高市首相)。首相は選択的夫婦別姓には「慎重な立場」で、旧姓使用の拡大とは「別物」だとしています。

  2. 自民党の小林鷹之政調会長は、できるだけ早いタイミングでの法制化を目指すとしています。旧姓使用の法制化は、自民党と日本維新の会の連立合意書にも盛り込まれています。政府高官は「今国会ではぜひ出したい」と語っています。

  3. 夫婦別姓を認めれば、一方の親と子の姓が異なることになり、家族の一体感を保てなくなるおそれがあります。家族の姓のあり方は各国の歴史や文化に根ざしており、単純に海外と比べるのは安直です。その意味で、通称使用の拡大は妥当です(読売新聞。ただし旧姓の「単記」には、本人確認の手間が増え混乱を招くとして反対しています)。

選択的夫婦別姓派の意見

  1. 姓と名は、その人が社会の中で形づくってきた人格の象徴です。結婚する際に一方が姓を変えなければならない制度は、自由で平等な意思に基づくはずの結婚を妨げうるもので、その不利益は女性に偏っています。旧姓の通称使用だけで解決する問題ではなく、これで選択的夫婦別姓の議論を幕引きしようとするなら筋違いです(朝日新聞)。

  2. 旧姓の単記が認められても、旧姓を使う人にとっては自分の名前が二つある状態が続きます。改姓する人の94%が女性で、女性に負担を押しつける構図は変わりません(毎日新聞)。日本弁護士連合会も、人権侵害が残ることや、二重の姓による混乱とコストを理由に、旧姓使用の法制化に反対しています。1996年の法制審議会は、通称使用の案を「制度として不徹底」として退けていました。

  3. 公明党の西田実仁幹事長は国会で、旧姓の通称使用の法制化は、個人の尊厳の確保やキャリアの断絶の根本的な解決にはならないと指摘しました。自民党内の選択的夫婦別姓の推進派にも、「別姓の実現が遠のく」として法制化に慎重な意見が多くあります。

「旧姓は使えるように、ただし単記は認めない」立場

  1. 参政党は10月6日、旧姓の通称使用を広げる独自の法案を参院に提出しました。戸籍には手を付けず、免許証やパスポートなどの本人確認書類では戸籍の姓との併記を基本とし、旧姓だけの記載は認めない内容です。旧姓の単記を広く認めれば、事実上の夫婦別姓になると主張しており、政府が検討する単記をけん制する狙いがあると報じられています。

背景を読む:それぞれの思惑

ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。

高市首相

「単記」まで踏み込むのは、別姓論を封じるため?

推測首相が旧姓の「単記」まで検討を指示したのは、旧姓使用でできることを最大限に広げ、「別姓でなければ解決しない」という主張の根拠を弱める狙いがあると読めます。日常生活の不便がほぼなくなれば、民法を変える必要はない――という論法です。毎日新聞の社説は、旧姓使用の拡大が「別姓導入を遅らせる言い訳」に使われることを警戒しています。

推測のもとにした事実

自民党

官邸が前のめり、党は「先送り」の温度差

推測首相官邸は今国会での提出に前向きですが、自民党は10月8日に予定していた検討チームの会合を見送りました。法案を出せば、選択的夫婦別姓を求める立憲・公明などとの対決は避けられません。与党が少数の参院で、ほかの重要法案の審議を抱えるなか、党としては「ここで火種を増やしたくない」という本音がのぞきます。党内の別姓推進派への配慮もあるでしょう。

推測のもとにした事実

日本維新の会

果たされない「連立合意」の約束

推測自民と維新の連立合意書には、旧姓使用の法制化法案を2026年の通常国会に提出すると明記されていました。しかし特別国会では委員会の日程を理由に見送られ、今の臨時国会でも先行きは不透明です。維新にとっては、合意の実行を迫ることで連立内での存在感を示す材料にもなります。

推測のもとにした事実

参政党

政府より先に「対案」を出した狙い

推測参政党は、政府の法案が出る前に、戸籍に触れず単記も認めない独自案を提出しました。単記を認める政府の方向性を「事実上の別姓」とけん制し、保守層に「本当に戸籍と家族を守るのは参政党だ」とアピールする狙いが読み取れます。政府案の中身に影響を与えようとする先手とも言えます。

推測のもとにした事実

政府・与党と野党

衆院の「大差」が変えた力関係

推測2月の衆院選で、選択的夫婦別姓を公約に掲げた中道改革連合が大きく議席を減らしました。共同通信は、そのことで政府が対抗して法案を急ぐ必要性が薄れたとの分析を伝えています。別姓を求める側は、参院で公明党などが追及を続けていますが、衆院での数の差は大きく、議論の主導権は旧姓使用の側に移りつつあるように見えます。

推測のもとにした事実

世の中の声

世論調査

  • 内閣府の調査(2021年12月実施、3択)では、「夫婦同姓を維持」27.0%、「夫婦同姓を維持したうえで旧姓の通称使用についての法制度を設ける」42.2%、「選択的夫婦別姓を導入」28.9%でした。

    法務省(選択的夫婦別氏制度について)
  • 共同通信の調査(2025年1月、賛否の2択)では、選択的夫婦別姓に「賛成」59.4%、「反対」32.7%でした。選択肢の作り方で結果が大きく変わる点に注意が必要です。2026年8月以降の新しい全国調査は、確認できた範囲では見当たりませんでした。

    日本経済新聞(共同通信世論調査)

SNSの反応

旧姓使用法制化寄りの声

  • 選択的夫婦別姓は、親子で姓が違う家庭を生むことになる。戸籍制度を守り、旧姓の通称使用で対応すべきだと思う

  • 今の制度でも旧姓は使えるし、困ることはほとんどないと思う

選択的夫婦別姓寄りの声

  • 「通称」はあくまで通称。法制化しても解決にはならないし、求められているのは選択的夫婦別姓だと思う

  • 法制審議会が別姓の導入を答申してから30年。旧姓の通称使用では、男女平等も個人の尊重もかなわない

  • 明治に始まった制度を「伝統」と呼ぶのは違和感がある。選択肢が増えて何がいけないのか

その他の声

  • 旧姓が使えない不便がなくなれば、別姓を導入しなくて済む。戸籍は変えず、身分証で旧姓だけの記載は認めない案に賛成

集め方:X(旧Twitter)で「夫婦別姓 OR 旧姓使用 OR 旧姓の通称使用」(いいね50件以上・話題順)と、「夫婦別姓 OR 旧姓」×「子どもの姓 OR 家族の一体感 OR 戸籍制度」など(いいね20件以上)で検索し、2026年8月〜10月10日の日本語投稿を確認しました。双方の投稿がありましたが、特定の政治家や団体を中傷する投稿は除いています
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。

③ ポイント整理

意見が一致している点

  • 結婚で姓を変えた人が、仕事や手続きで不便や不利益を感じている現状があること
  • 旧姓を使える場面を広げること自体には、多くの立場が反対していないこと

意見が分かれている点

  • 旧姓使用の拡大で十分か、民法を改正して選択的夫婦別姓を導入すべきか
  • 身分証などで旧姓だけの記載(単記)を認めるべきか、戸籍の姓との併記にとどめるべきか
  • 夫婦別姓が家族の一体感や子どもに与える影響をどう考えるか

今後の注目点

  • 政府が臨時国会に旧姓使用の法案を提出するかどうか
  • 自民党の検討チームでの議論と、法案の中身(単記の範囲)
  • 参政党の法案の扱い
  • 選択的夫婦別姓をめぐる裁判(いわゆる第3次訴訟)の行方

「結婚で姓を変えた人の不便を減らすべきだ」という点では、ほぼすべての立場が一致しています。分かれているのは、その方法です。旧姓を使える場面を広げれば十分だという立場、旧姓だけの記載まで認めるかどうかで割れる立場、そして民法を改正して夫婦が別の姓を選べるようにすべきだという立場の、三つに分かれています。 世論調査も、聞き方しだいで結果が大きく変わります。法制審議会の答申から30年。臨時国会で政府が法案を出すのか、出すならどこまで踏み込むのかが、当面の焦点です。