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外交・安全保障(更新 2026年10月14日)

米国がICC本体に制裁、日本人所長は「断固拒絶」 日本は同盟国にどこまで物を言うべきか

トランプ米政権が10月9日、国際刑事裁判所(ICC)そのものを制裁対象に指定しました。8月には日本人の赤根智子所長も制裁を受けています。一方でロシアは、赤根所長らを指名手配し、身柄の引き渡しをオランダなどに要請しました。米ロ双方から圧力を受けるICCに対し、最大の資金拠出国として、日本は米国にもっと強く撤回を迫るべきか、同盟関係を踏まえ対話で働きかけるべきか。それぞれの主張をまとめました。

国際刑事裁判所(ICC)の庁舎(オランダ・ハーグ)
国際刑事裁判所(オランダ・ハーグ)写真:Ymblanter / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
結果2026年10月13日:首相、国会で「ICCの活動を支援していく」と答弁↓

この記事のポイント

  • 米国は8月、ICCの赤根智子所長(日本人)らを制裁対象に指定し、10月9日にはICCそのものを制裁対象にしました。米企業との取引やドル建ての決済から締め出す内容で、適用までに180日の猶予があります。
  • 米国はICCに加盟しておらず、ICCが米国人やイスラエルの首相らを捜査・訴追しようとしていることに強く反発しています。赤根所長は「断固として拒否する」とするビデオ声明を出しました。
  • ロシアも、ICCがプーチン大統領に逮捕状を出したことに反発し、赤根所長らを指名手配しています。10月8日には、本人不在のまま有罪とした赤根所長ら9人の身柄を拘束して引き渡すよう、オランダなどに要請しました。オランダ側が応じる可能性は低いとみられています。
  • 日本はICCへの最大の資金拠出国です。8月に高市首相が「大変残念」と述べるにとどめたことには「弱腰」との批判が相次ぎました。10月の制裁では、首相が「深く懸念している」と表明し、英仏独などとともに8か国の外相声明で「強く反対」しました。
  • 9月の世論調査では、首相の対応を「妥当ではない」とする人が53.2%で、「妥当だ」の36.4%を上回りました。

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① 何が起きているのか

国際刑事裁判所(ICC)をめぐって、米国と、日本を含む加盟国との対立が深まっています。

ICCとは

戦争犯罪や大量虐殺、人道に対する罪を犯した個人を裁く常設の国際法廷です。2002年に設立され、オランダのハーグにあります。

  • 加盟:125の国・地域。日本は2007年に加盟。米国・中国・ロシアは加盟していません
  • 日本の役割:最大の資金拠出国で、2025年の分担金は約45億円(予算のおよそ15%)
  • 所長:赤根智子氏(2024年に日本人として初めて所長に就任)

何が起きているのか

時期 出来事
2023年3月 ICCが、ウクライナの占領地から子どもを連れ去った戦争犯罪の疑いで、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を出す。ロシアは反発し、赤根氏らICCの裁判官・検察官を指名手配
2024年11月 ICCが、ガザでの戦争犯罪の疑いでイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を出す
2025年12月 モスクワの裁判所が、赤根氏らに本人不在のまま有罪判決(拘禁刑)
2025年2月 トランプ大統領が、ICC関係者への制裁を可能にする大統領令に署名。その後、判事らが順次制裁対象に
2026年7月 ルビオ国務長官がICCの解体を目指すと表明
8月18日 米国が赤根所長らを制裁対象に指定(米国内の資産凍結、入国禁止など)。高市首相は「大変残念」
8月25日 首相が「日本の立場と相いれず、深刻に受け止めている」と表明
10月8日 ロシア最高検が、赤根所長ら9人の拘束・引き渡しをオランダなどに要請。日本政府は「遺憾」と表明
10月9日 米国がICC本体を制裁対象に指定(適用まで180日の猶予)。赤根所長は「断固として拒否する」とビデオ声明
10月10日 日本・英国・フランス・ドイツなど8か国の外相が「強く反対」との共同声明。茂木外相が赤根所長と電話会談

制裁の中身

  • 8月(赤根所長ら個人):米国内の資産凍結と入国禁止。米国の金融システムから事実上締め出され、クレジットカードや通信サービスなども使いにくくなるとされます
  • 10月(ICC本体):米国企業との取引の禁止、ドル建ての決済からの締め出し。組織の運営に関わる一部の活動は、猶予期間中は認められます

ロシアによる「指名手配」と引き渡し要請

ICCへの圧力は、米国からだけではありません。

  • きっかけ:ICCは2023年3月、ウクライナの占領地からロシアへ子どもたちを連れ去ったことが戦争犯罪にあたる疑いがあるとして、プーチン大統領らに逮捕状を出しました。ロシアはこれに反発し、赤根氏らICCの裁判官や検察官を指名手配しました
  • 欠席裁判:モスクワの裁判所は2025年12月、赤根所長ら9人に、本人がいないまま3年6か月から15年の拘禁刑の有罪判決を言い渡しました(赤根所長の刑期は明らかにされていません)
  • 引き渡し要請:ロシア最高検は2026年10月8日、ICCの本部があるオランダなど複数の国に、赤根所長ら9人の身柄を拘束してロシアに引き渡すよう要請したと発表しました
  • オランダの対応:オランダ司法・安全省の報道官は、2021年以降、ハーグの裁判所はロシアへの身柄引き渡しを禁じていると説明しており、要請に応じる可能性は低いとみられます
  • 日本政府の対応:尾崎官房副長官は「遺憾だ」と述べ、ICCや他の締約国と連携しながら、ロシアへのさらなる申し入れも含めて適切に対応するとしました

赤根所長は、米国からは制裁を、ロシアからは指名手配を受けるという、国際法廷の長としては異例の状況に置かれています。

② それぞれの意見

各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。

直言派の意見

  1. 国際法廷を率いる日本人代表への不当な攻撃で、法の支配を主張してきた日本外交を真っ向から否定したに等しい暴挙です。日本は最大の分担金拠出国で、赤根氏を送り出した責任があります。にもかかわらず首相が「大変残念」と述べるにとどめたことには、失望を禁じ得ません(読売新聞)。

  2. 欧州諸国や国連が即座に赤根氏との連帯を表明し、米国を批判したのとは対照的に、日本政府の存在感は薄いままです。トランプ大統領の機嫌を損ねれば、安全保障や関税で負担を求められかねないと恐れたのでしょう。日本がこの振る舞いを座視すれば「力による支配」を認めることになります。同盟国として直言をいとうべきではありません(毎日新聞)。

  3. 超党派の議員連盟(共同会長・中谷元元防衛相)は、政府の対応は諸国と比べて「段違いに弱い」とし、米国への抗議と即時撤回の要求を求めました。国民民主党も10月の制裁を受けて、懸念の表明にとどまらず、即時撤回を求める公式な対話を米国に申し入れるよう求めています。

対話重視派の意見

  1. 制裁は日本の立場と相いれず、深刻に受け止めているが、「弱腰との批判は当たらない」としています。米国には各レベルで働きかけてきたと説明し、最大の拠出国としてICCを守る立場を強調しました。10月の制裁にも「深く懸念している」とし、米国への働きかけを続けながら、ICCが役割を果たせるよう必要な支援を行うとしています(高市首相)。

  2. 米国の解体論や制裁は行き過ぎで、撤回してICCとの話し合いで解決してほしい。そのうえで、首相が「米国を含む関係国と意思疎通を継続しながら対応する」と述べたのは妥当であり、米国の翻意を促してほしいとしています。一方で、ICCが中国のウイグル人弾圧や北朝鮮による日本人拉致を裁けないなど、ICCの側にも課題があると指摘しています(産経新聞)。

  3. 政府内には、米国を強く非難しても問題が解決するとは限らず、日本が表立って動けば赤根氏にさらに不利益が及ぶおそれがあるとの見方もあります。日本は10月10日、英国・フランス・ドイツなど7か国とともに、制裁に「強く反対する」外相共同声明を出し、各国と連携して働きかける道を選びました。

米国・イスラエル側の主張

  1. ルビオ国務長官は、赤根氏らがICCの管轄権に同意していない国の当局者の捜査や訴追に関わってきたとして、「国家主権への攻撃は容認しない」としています。ICCがアフガニスタンで活動した米軍人を捜査対象にしたことや、非加盟国イスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を出したことが背景にあるとみられます。ネタニヤフ首相は今回の制裁を称賛しました。

「猶予期間」の対話に期待する立場

  1. EUの欧州委員会は制裁を「極めて遺憾」としつつ、適用まで180日の猶予があることから「対話の余地がある」と指摘しています。8か国の外相声明も、米国などICC非加盟国との対話を進める姿勢を示しました。

Xの発信

背景を読む:それぞれの思惑

ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。

高市政権

「大変残念」から「深く懸念」へ、トーンが変わった理由

推測8月の制裁直後、首相は「大変残念」と述べるにとどめ、社説や超党派の議員連盟から厳しい批判を浴びました。世論調査でも首相の対応を「妥当ではない」とする人が半数を超えています。10月の制裁では「深く懸念」と表現を強め、欧州の主要国と足並みをそろえて外相声明に加わりました。国内の批判を受け、「一国だけで米国に盾突く」形を避けつつ、多国間の枠組みで立場を示す道を選んだと読めます。

推測のもとにした事実

外務省

抗議の中に忍ばせた「米国への配慮」

推測茂木外相のメッセージは、制裁に「深い懸念」を示す一方で、ICCが国際社会の信頼に足る裁判所であるためには、ICCや締約国が「抱える課題」に対処することが重要だとも指摘しました。ICCへの米国の不満にも一定の理解を示すことで、トランプ政権との関係が決定的にこじれるのを避けたい――抗議と配慮を一つの文書に同居させる、苦心の外交文書と読めます。

推測のもとにした事実

日本政府

関税と安全保障という「人質」

推測トランプ大統領の機嫌を損ねれば、関税や安全保障の面で新たな負担を求められかねない――政府の慎重さの背景には、そうした懸念があると指摘されています。11月のAPEC、12月のG20で首相とトランプ氏が顔を合わせる見込みで、その場でICCへの対応を迫られる可能性もあります。米国のルビオ国務長官は、同盟国に「ICCを抑え込む」ことを求めており、日本は法の支配と同盟の板挟みが続きそうです。

推測のもとにした事実

トランプ政権

なぜ今、ICCそのものを狙ったのか

推測トランプ政権は、軍事行動などをめぐって米国の政府高官や兵士が訴追されることを強く警戒しています。ICC本体への制裁は、加盟国に脱退を迫り、ICCを機能不全に追い込む狙いとみられます。11月の中間選挙を前に、「米国の主権を守る」姿勢を支持層にアピールする国内向けの意味合いもあるとの見方があります。

推測のもとにした事実

日本政府

ロシアには「遺憾」、米国には「懸念」?

推測ロシアは10月8日、プーチン大統領への逮捕状への対抗措置として、赤根所長らの拘束・引き渡しをオランダなどに求めました。日本政府はこれに「遺憾だ」と明言し、ロシアへの申し入れも含めて対応するとしています。同じように赤根所長を標的にした措置でも、ロシアと米国とで言葉の強さに差があるように見えることは、日本の「法の支配」外交の一貫性を問う論点になりえます。

推測のもとにした事実

世の中の声

世論調査

SNSの反応

直言寄りの声

  • ICC全体への制裁は、戦後築いてきた「法の支配」を大きく傷つける。日本も含め、各国がはっきり反対を示すべきだと思う

  • 国内向けのアピールはもう十分。トランプ大統領に直接、制裁の撤回を求めるべきだと思う

  • 同盟国だからこそ言うべきことがある。米国の顔色をうかがう外交では、国際正義は守れない

対話重視寄りの声

  • 日本が8か国の外相声明に加わり、米国の制裁に反対を示したことは支持したい

  • 日米同盟の信頼関係は大事にしつつ、日本の国益のために主張すべきことは主張してほしい

その他の声

  • ネタニヤフ首相には逮捕状を出すのに、拉致を続ける北朝鮮やウイグルの問題には何もできないICCが「法の支配」を語れるのか疑問だ

  • 8月に所長が制裁されたときと比べて、今回の日本政府の反応ははっきり強くなったと思う

集め方:X(旧Twitter)で「ICC OR 国際刑事裁判所 OR 赤根」×「制裁」(いいね50件以上・話題順)と、政府の対応を支持する声やICCに批判的な声を探すため「ICC OR 国際刑事裁判所」×「日米同盟 OR 冷静 OR 現実的 OR 管轄 OR ネタニヤフ」など(いいね10件以上)で検索し、2026年8月〜10月10日の日本語投稿を確認しました。米国の制裁に反対し、日本政府にもっと強い対応を求める投稿が大半でした
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。

③ ポイント整理

意見が一致している点

  • ICCを支持し、赤根所長とICCの活動を守るべきだということ(政府も、主要な新聞も一致しています)
  • 米国の制裁は行き過ぎであり、撤回されるべきだということ(推進側に近い産経新聞も撤回を求めています)
  • 日米同盟そのものは重要だということ

意見が分かれている点

  • 日本は米国に直接、強く抗議し撤回を求めるべきか、各国と連携した働きかけや対話を重視すべきか
  • これまでの政府の対応が「弱腰」なのか、現実的なのか
  • ICCの側の課題(管轄の限界など)を、今の時点でどこまで問題にすべきか

今後の注目点

  • 適用までの180日の猶予期間(2027年4月まで)の米国と各国の対話
  • 11月のAPEC首脳会議、12月のG20サミットでの日米首脳のやりとり
  • EUの対抗措置の検討と、ICC加盟国の脱退の動き

ICCを支持し、米国の制裁に反対するという点では、日本政府も主要な新聞も、立場の違いを超えて一致しています。分かれているのは、同盟国である米国に対して、どこまで強く、どんな形で物を言うかです。 8月の「残念」から10月の「深く懸念」・8か国声明へと、政府の姿勢には変化が見られます。180日の猶予期間に、日本が最大の拠出国としてどんな働きかけをし、成果につなげられるかが問われています。

④ その後どうなった?

この記事の公開後に出た結果や、大きな動きを追記しています。

  1. 首相、国会で「ICCの活動を支援していく」と答弁

    高市首相は10月13日の衆院予算委員会で、米国がICCそのものを制裁対象にしたことについて「日米外相間の意思疎通を続け、関係国と力を合わせてICCの活動を支援していく」と述べ、ICCを「今後も支持する」と明言しました。 8月の所長への制裁では「大変残念」と述べるにとどめていましたが、10月9日の「深く懸念」に続き、国会の場で支持をはっきり打ち出した形です。制裁が全面的に発動されるまでの180日の猶予期間に、米国とどう向き合うかが引き続き焦点です。

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