衆院の議員定数を45削減へ 「身を切る改革」か「少数意見の切り捨て」か
自民党と維新が成立を目指す、衆院の比例代表を45議席減らす法案。野党は全党が反対し、保守系の読売新聞も撤回を求める一方、世論調査では賛成が多数です。どこで意見が分かれているのかをまとめました。
この記事のポイント
- 自民党と維新は、衆院の比例代表を45議席減らす(定数465→420)法案の今国会での成立を目指しています。与野党の協議で1年以内に結論が出なければ、自動的に削減される仕組みです。
- 野党は全党が反対しています。リベラル系の新聞だけでなく、保守系の読売新聞も「法案を撤回すべき」と主張しており、新聞の論調は左右を問わず反対が目立ちます。
- 一方、世論調査では賛成が反対を大きく上回っています(時事通信の6月調査で賛成53.4%、反対15.7%)。「政党・新聞」と「世論」の受け止めにずれがあるテーマです。
- 与野党の協議は、10月末をめどに結論を出すことになっています。
① 何が起きているのか
10月5日に召集された臨時国会では、消費税減税と並んで、衆院の議員定数を減らす法案が大きな争点になっています。
どんな法案か
- 衆院議長のもとに置く与野党の協議会で、選挙制度と定数のあり方を話し合います
- 法律の施行から1年以内に結論が出なければ、比例代表の定数を自動的に45減らします(176→131)
- 小選挙区(289)は変えないため、衆院の定数は465から420になります
自民党と維新が6月に共同で提出し、7月に「継続審議」となって今の国会に持ち越されています。
これまでの経緯
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年10月 | 自民・維新が連立合意。「1割を目標に定数を削減」と明記(維新は連立の「絶対条件」と位置づけ) |
| 2025年12月 | 「小選挙区25・比例20」を減らす法案を提出。審議されないまま、1月の衆院解散で廃案に |
| 2026年2月 | 衆院選。自民党が単独で316議席を獲得し、衆院の3分の2を超える |
| 2026年6月 | 「比例代表のみ45削減」の新しい法案を提出。野党が欠席するなかで審議入り |
| 2026年7月 | 今国会での成立を見送り、継続審議に |
| 2026年9月30日 | 与野党の協議会が「10月末をめどに結論を得るよう努力する」との報告書をまとめる(当初の期限は9月末) |
| 2026年10月6日 | 9党による政党間協議が始まる |
国会の勢力図
衆院では、自民党が単独で3分の2を超えています。そのため、参院で法案が否決されても、衆院でもう一度可決すれば成立させることができます。ただし参院では、自民党と維新を合わせても過半数に届きません。野党は全党が反対しており、10月2日には衆参の野党の国対委員長が、法案の成立阻止で一致しました。
数字で見る
- 議員の数:日本の衆院議員は人口100万人あたり約3.8人で、OECD加盟38カ国のうち下から3番目に少ない水準とされます(東京新聞の集計)
- 削減で浮くお金:45人分で年間約30億円という試算があります。国の予算(約122兆円)と比べると、ごくわずかです
- 比例の割合:現在は定数の約38%が比例代表ですが、45削減すると約31%に下がります
② それぞれの意見
各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。
推進派の意見
議員定数の削減は「身を切る改革」の柱であり、政治改革の「センターピン(最も重要な要)」です(維新・吉村代表)。臨時国会で、消費税減税とあわせて定数削減を必ず実現します。
定数削減は、先の衆院選で政権公約として掲げたものであり、実現に向けて真摯に取り組みます(首相)。10月7日の衆院代表質問でも「今国会での実現に向け議論を期待する」と述べています。
野党は「バーター(取引)」で重要法案を人質に取るやり方を続けてきたのではないか。野党からすれば、定数削減は便利な材料になっている(維新・藤田共同代表)。自民党の長谷川淳二氏も、協議会で「比例代表の削減が適切だ」と主張しています。
反対派の意見
野党は全党が反対です。公明党の竹谷前代表は、1割削減の根拠を尋ねたところ首相が「維新から提案を受けたから」と答えたとして、政策としての正当性がなく「多様な民意を切る改革」だと批判しました。共産党の塩川国対委員長は「定数を削ることは民意を削り、行政を監視する機能も弱める」と主張。参政党の豊田政調会長も、日本の議員数はもともと各国より少なく「失われるのは国民の声を国政に届ける機会だ」と指摘しています。
保守系の読売新聞も、繰り返し反対の社説を掲げています。比例代表だけを削れば、小選挙区で勝ちにくい中小政党が不利になり、全野党が反発するのは当然。与党が「削減ありき」の法案をちらつかせていては選挙制度の議論が成り立たないので、まず法案を撤回すべきだ、と主張しています。また、与党が強引な姿勢を続ければ、復活当選の見直しなど「当面の改革」の合意まで台無しになりかねない、とも指摘しています。
比例代表を45減らすと、衆院に占める比例の割合は約38%から約31%に下がります。東京新聞の試算では、与党の議席占有率は75%から80%超に上がり、戦時中の「翼賛選挙」に匹敵するほど民意が偏りかねません。議員が身を削るというなら、まず1人月100万円の調査研究広報滞在費や、年315億円余りの政党交付金を削るべきだ、と主張しています(東京新聞)。
自民党のOB
大島理森元衆院議長は「『身を切る』とは何か。思想がなく、何のためかが分からない」と苦言を呈し、熟議を求めました。川端達夫元衆院副議長も「民主主義の根幹に関わる。あまりにも雑だ」と述べています。
削減そのものは否定しない立場
国民民主党は、定数削減そのものには否定的ではありません。ただ、比例だけを45減らすのは「選挙区と比例のバランスを大きく損なう」として認められず、「削減ありきではなく議論すべきだ」としています(古川元久氏)。
背景を読む:それぞれの思惑
ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。
日本維新の会
維新がここまで定数削減にこだわる理由
推測自民党と連立を組んだものの、衆院選では議席がほぼ横ばいで、支持率も2%台に低迷しています。連立の中で存在感が薄れるなか、「維新が入ったからこそ実現した」と言える目に見える成果が、どうしても必要なのでしょう。大阪府議会で定数を大きく減らした成功体験もあります。さらに、比例だけを削る案は、ほかの政党に比べて維新の痛手が最も小さいという計算も働いているのかもしれません。
推測のもとにした事実
- ・9月のNHK世論調査で、維新の支持率は2.3%(自民は35.9%)NHK(9月の政党支持率)(9/14)
- ・維新は定数削減を連立の「絶対条件」としていた。大阪府議会では2011年に定数を109から88に減らしている時事通信(自維連立合意の要旨)(10/21)nippon.com(定数削減の論点)(7/24)
- ・比例を45削減した場合の比例議席の減少率は、参政党・共産党が50%、国民民主党33%、自民党21%に対し、維新は15%で最も小さい(時事通信の試算)時事通信(政党別の試算)(6/28)
自民党
なぜ「小選挙区」ではなく「比例代表」を削るのか
推測小選挙区を減らすと、自民党の現職議員同士で「誰の選挙区をなくすか」という難しい調整が必要になります。比例代表なら、その調整をせずに済みます。しかも比例だけを削れば、比例に頼る中小の野党ほど痛手が大きく、自民党の議席占有率はむしろ上がる計算です。維新との約束を守りつつ、自分たちの痛みは小さく抑えられる――比例に絞った背景には、そんな計算があるとみられます。
推測のもとにした事実
- ・高市首相は6月、自民党に「削減は比例代表として」まとめるよう指示した秋田魁新報(共同)(6/4)
- ・比例だけを削減すると、与党の議席占有率は75%から80%超に上がる(東京新聞の試算)東京新聞 社説(9/28)
- ・自民党が比例に絞ったのは、小選挙区を減らすと候補者の調整が難しくなるためとみられる(西日本新聞の分析)西日本新聞 社説(6/30)
自民党
自民党は本当に成立させたいのか
推測表向きは「今国会での実現を期待する」と言いながら、党内では賛否が割れ、結論の期限も先送りされました。維新への義理から旗を降ろすわけにはいかないものの、本音では最優先の消費税減税を通すことが先で、定数削減は「努力したが野党の反対でまとまらなかった」という形で先送りできれば、それでもよい――そう考えている議員も少なくないのかもしれません。
推測のもとにした事実
- ・2025年12月の法案提出の際にも、自民党内には「提出で合意は果たした」として不成立を期待する見方があると報じられた北海道新聞(12/5)
- ・協議会は当初9月末に結論を出す予定だったが、10月末に先送りした。消費税減税法案の審議への影響を避けたい与党の意向があったとみられるデイリースポーツ(共同・選挙制度協議会)(9/30)
- ・10月7日には、鈴木俊一幹事長が「人口減少分として31議席」という例を挙げたあと撤回し、維新の藤田共同代表が「45議席削減の方針は与党で一致している」と反応した沖縄タイムス(共同)(10/7)
野党
野党が全党そろって反対する背景
推測「民意が切り捨てられる」という理念はもちろんですが、比例代表を削られることは、多くの野党にとって自分たちの議席に直結する死活問題でもあります。参政党、チームみらい、共産党、れいわ新選組は、衆院の議席がすべて比例代表です。来春には統一地方選も控えています。理念と生き残りが重なっているからこそ、ふだんは立場の違う野党が珍しく一枚岩になれている、とも読めます。
推測のもとにした事実
- ・2026年2月の衆院選で、参政党(15議席)、チームみらい(11議席)、共産党(4議席)、れいわ新選組(1議席)は、いずれも全議席を比例代表で獲得したnippon.com(衆院選の結果)
- ・10月2日、衆参の野党国対委員長が定数削減法案の成立阻止で一致したしんぶん赤旗(野党国対委員長会談)(10/3)
与党・野党
消費税減税法案との「天秤」
推測参院で過半数を持たない与党は、最優先の消費税減税法案を通すために、一部の野党の協力が欠かせません。定数削減で強硬に出れば、野党が反発して消費税法案の審議まで止まりかねない。逆に野党から見れば、定数削減の反対は与党を揺さぶる交渉材料になります。藤田氏の「重要法案を人質に」という批判は、まさにこの構図を指していると言えそうです。2つの法案は、表向きは別々でも、実際には天秤にかけられているのかもしれません。
推測のもとにした事実
- ・参院では、自民会派と維新を合わせても過半数に届かない秋田魁新報(参院の勢力)(4/2)
- ・野党国対委員長会談では、定数削減法案の成立阻止と、消費税減税法案の審議についての要求を同じ場で確認したしんぶん赤旗(野党国対委員長会談)(10/3)
- ・藤田共同代表は、野党が「バーターで重要法案を人質にするやり方」を続けてきたと批判した毎日新聞(藤田共同代表の会見)(9/30)
与党・野党
世論と政界の「ねじれ」をどう見ているか
推測世論調査では賛成が多数で、与党はこれを追い風と受け止めているはずです。「議員の経費が高すぎる」と感じる人が多いなかで、反対する野党を「既得権益を守る側」と印象づけられれば、与党に有利に働きます。一方、野党や新聞は「民意が狭まる仕組みが十分に知られていない」と見ています。調査でも「選挙制度改革と一体で」という声は多く、賛成の中身は「とにかく減らせ」だけではなさそうです。
推測のもとにした事実
- ・時事通信の6月調査で、比例45削減への賛成は53.4%、反対は15.7%Adnkronos(時事通信の転載)(6/18)
- ・7月の調査では、賛成の理由で最も多かったのは「議員の経費が高すぎる」(35.8%)、反対の理由で最も多かったのは「特定の政党に有利になる」(37.1%)だった(JX通信社・選挙ドットコムの調査)nippon.com(定数削減の論点)(7/24)
- ・日経・テレビ東京の5月調査では、「選挙制度改革と一体で」が56%で最も多かった日本経済新聞(世論調査)
世の中の声
世論調査
自民・維新の「比例代表45削減」に賛成が53.4%、反対が15.7%、「どちらとも言えない」が30.9%でした。自民・維新・国民民主の支持層では6〜7割が賛成し、中道の支持層では反対が50%でした(時事通信の6月調査。当サイトは英語の転載記事で確認しています)。
Adnkronos(時事通信の転載)(6/18)進め方については「選挙制度改革と一体で行うべき」が56%で、「定数削減のみを先に行うべき」の25%を上回りました。「削減は不要」は11%でした(日本経済新聞・テレビ東京の5月調査)。
日本経済新聞(世論調査)
SNSの反応
推進寄りの声
定数削減は選挙のときの公約でもあったはず。それで大勝したんだから、有言実行は当然でしょ
国会の質が落ちてると思う。比例を減らすのにも賛成だし、国対政治みたいな非効率なやり方もやめてほしい
無駄な議員が多すぎる。税金も時間ももったいない
反対寄りの声
「身を切る」って言いながら比例を削るのは、本当に自分たちの身を切ってるの? 減らすべきは議員の数じゃなくて利権政治だと思う
議員が減ったら、女性や若者、少数派の声がますます国会に届かなくなる
人口の減り方に合わせて減らすなら、削るのはほんの数人で済む計算になるよね
その他の声
定数削減って、国民との約束というより、維新と政権の約束じゃないの?
保守の立場から見ても、比例だけを削るのは筋が違う気がする
消費税減税で大騒ぎしている間に、定数削減の法案がしれっと進むのが怖い
集め方:X(旧Twitter)で「議員定数削減」(いいね30件以上・話題順)と、「定数削減」に「賛成」「当然」「無駄」などを組み合わせた検索を行い、2026年9月25日〜10月10日の日本語投稿 約40件を確認しました(反対の投稿が多かったため、賛成の声も意識して探しています)
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。
③ ポイント整理
意見が一致している点
- 現在の選挙制度(小選挙区比例代表並立制)に見直すべき点があること
- 選挙区で落選した候補が比例で復活当選する仕組みは、見直しの余地があること(多くの党が賛同)
意見が分かれている点
- 比例代表だけを45減らすことの是非(民意の反映が弱まるか、適正化か)
- 削減の「数」を先に決めるのか、選挙制度全体の議論を先にするのか
- 1年以内に結論が出なければ自動的に削減する仕組みの是非
- 日本の議員数は多すぎるのか、むしろ少ないのか
今後の注目点
- 10月末をめどとする政党間協議で、与野党が歩み寄れるか
- 消費税減税法案の審議との兼ね合い
- 参院で否決された場合、衆院で再可決に踏み切るか
このテーマは、保守系の読売新聞も、リベラル系の朝日・毎日・東京新聞も反対という点で、「保守かリベラルか」ではなく「推進か反対か」に分かれています。一方で世論調査では賛成が多く、政党・新聞と世論の受け止めに大きなずれがあるのが特徴です。 争点は「議員を減らすかどうか」そのものより、「比例だけを削ってよいのか」「数を先に決めてよいのか」にあります。10月末の協議で結論が出るかどうかが、まず注目点です。