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選挙のSNS偽情報、「収益化停止」まで踏み込むか 表現の萎縮を心配する声も

選挙中のSNSの偽情報対策を定めた改正法が7月に成立し、与野党は10月9日、投稿者が閲覧数に応じて報酬を得る「収益化」への対応などをSNS事業者に求めるよう総務省に申し入れました。より強い規制を求める新聞各紙と、表現の萎縮や運用の不透明さを心配する立場の主張をまとめました。

選挙ポスターの掲示板
イメージ写真:Kuha455405 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

この記事のポイント

  • 選挙中のSNSの偽情報対策として、公職選挙法と情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)を一緒に改正する法律が、7月13日に成立しました。一部を除き2027年3月に施行され、来年4月に見込まれる統一地方選から適用されます。
  • 候補者についての虚偽の情報などで選挙の公正を害さないよう定め、AIで作った「本物と見間違えるおそれのある」画像・動画にはその旨の表示を義務づけました。大手SNS事業者には、選挙への悪影響を減らす措置と、その実施状況の毎年の公表を義務づけました。いずれも罰則はありません。
  • 与野党の協議会は10月9日、閲覧数に応じて投稿者が報酬を得る「収益化」への対応や、候補者・政党の公式サイトの優先表示、AI生成コンテンツやボットへの対応などを、総務相の指針に盛り込むよう総務省に申し入れました。総務省は年内にも指針案をまとめる見通しです。
  • 新聞各紙の社説は「事業者任せでは効果が乏しい」として、より強い対策を求めています。一方、参院で唯一反対したれいわ新選組などは、表現の萎縮や、何が偽情報かを誰が判断するのかを懸念しています。

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① 何が起きているのか

2024年11月の兵庫県知事選で、真偽不明の情報がSNSで広がったことをきっかけに、選挙のSNS対策の議論が始まりました。その後、2025年の参院選や2026年2月の衆院選では、生成AIで作られた党首の偽動画が拡散するなど、問題はさらに広がりました。

改正法の主な中身

公職選挙法

  • 候補者についての虚偽の情報や、事実をゆがめた情報で選挙の公正を害さないよう定める(罰則なし)
  • AIで作った・加工した画像や動画のうち、実際に撮影されたと誤解されるおそれのあるものには、AIで作ったことの表示を義務づける
  • 一般の有権者も、電子メールで投票を呼びかけられるようになる

情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)

  • 大手のSNS・動画・検索サービスの事業者に、偽情報や違法な情報による選挙への悪影響を減らす「必要な措置」を義務づけ、実施状況を毎年公表させる
  • 具体的な措置は総務相が指針で例を示すが、何を行うかは事業者の判断に任せる(罰則なし)
  • 個別の投稿の削除を義務づけるものではない

10月9日の申し入れの主な中身

  • 閲覧数に応じて投稿者が報酬を得る「収益化」への対応
  • 候補者・政党の公式サイトなど、信頼できる情報の優先表示
  • AIで作られたコンテンツへの対応
  • ボット(自動投稿プログラム)による拡散への対応
  • 基本的な考え方として、「表現活動の過度の萎縮を招かない」ことを明記

これまでの流れ

時期 出来事
2024年11月 兵庫県知事選で真偽不明の情報が拡散
2026年5月 与野党の協議会が法制化で合意
6月26日 改正法案が衆院を通過
7月13日 参院本会議で成立(賛成239、反対5)
9月 与野党の協議会で、事業者に求める措置の推奨案を議論
10月9日 与野党の協議会が総務省に申し入れ
年内 総務省が指針案をまとめる見通し
2027年3月 施行(統一地方選から適用)

② それぞれの意見

各立場の主な主張を、元の発言や記事をもとに、当サイトがわかりやすくまとめています。

対策強化派の意見

  1. 一昨年の兵庫県知事選をきっかけに検討が始まったのに、結論が出ないまま参院選と衆院選が行われ、生成AIによる偽動画の拡散などで事態はむしろ深刻になりました。罰則がなく、総務相に勧告や指導の権限もないのでは実効性に疑問が残ります。刺激的な投稿ほど広告収入が増える仕組みが偽情報を広げており、選挙期間中に広告収入を止める法規制を急いで検討すべきです(読売新聞)。

  2. 閲覧数が増えるほど投稿者の収入が増える仕組みは、真偽不明の過激なコンテンツが広がる温床です。収益化の停止は投稿そのものを制限するものではなく、表現の自由の侵害にはあたりません。選挙期間中は選挙や政治に関する投稿の収益化を止めるなど、事業者任せにしない規制が必要です(朝日新聞)。

  3. 事業者任せの部分が大きく、罰則もありません。選挙期間中の収益化の停止に加え、規制が見送られた政党の有料ネット広告への対応も必要です(中日新聞・東京新聞、神戸新聞)。

慎重派の意見

  1. 政治的な投稿には考え方の違いがあり、うその情報か正当な批判かを公平・中立に判断するのは難しいです。罰則がなくても、非難されたり削除されたりするのを恐れて投稿を控える萎縮が起きかねません。大きな影響力を持つSNS企業が言論を左右したり、政権が都合の悪い投稿の削除を迫ったりするおそれもあり、判断基準を誰が決め、誰が責任を負うのかも決まっていません(れいわ新選組の木村英子参院議員。参院本会議では、れいわの5人だけが反対しました)。

  2. 行政が選挙運動についての指針をつくるのは、議会制民主主義の観点から問題があります。罰則のない「禁止」の規定でも、有権者が萎縮しかねません。むしろ戸別訪問の解禁など、選挙運動の自由を広げることこそ重要です(共産党の塩川鉄也衆院議員。共産党は法案には賛成しました)。

  3. 総務省からの勧告を避けたい事業者が、選挙に関する投稿を必要以上に削除し、表現が萎縮するおそれがあります(選挙ドットコムの和田晋司氏)。

「効果がほとんど期待できない」とする見方

  1. 選挙ドットコムが2月の衆院選期間中に再生された第三者の政治系動画を分析したところ、再生回数の上位40本のうち、今回の改正で規制の対象になりそうなものはなかったといいます。誹謗中傷や、人をあおるようなコンテンツへの手だては乏しく、法改正の効果はほとんど期待できないとの指摘です(選挙ドットコムちゃんねるの鈴木邦和編集長)。

法案を提出した側の説明

  1. 何が虚偽情報にあたるかの判断は難しく、表現の自由や選挙運動の自由は最大限尊重されるべきなので、規制は必要最小限にしました。新しい規制に罰則は設けず、事業者にも個別の投稿の真偽判断や削除を直接は義務づけていません。虚偽情報の判断基準を指針で示すことも考えていないと説明しています(提出者の武藤かず子衆院議員)。

背景を読む:それぞれの思惑

ここからは編集部の見立て(推測)です。裏付けはありませんが、推測のもとにした事実には出典を付けています。

与野党各党

「最大公約数」で落ち着いた理由

推測法案は与野党6党が共同で提出し、SNSで支持を広げてきた参政党やチームみらいも提出者に入りました。反対はれいわ新選組だけでした。SNSは今や多くの政党にとって欠かせない発信の場で、規制が強すぎれば自分たちの活動も縛られかねません。罰則なし・事業者任せという「必要最小限」の形は、どの党も受け入れられる線を探った結果とも読めます。

推測のもとにした事実

SNS事業者

「収益化停止」が法律の本文に入らなかった理由

推測収益化の停止は、事業者自身の広告収入の減少にもつながります。法律の本文には入らず、付帯決議や指針の例示にとどまったのは、事業者の負担への配慮があったと報じられています。指針に盛り込まれても、何を実施するかは事業者の判断に委ねられるため、各社がどこまで踏み込むかが実際の効果を左右しそうです。

推測のもとにした事実

総務省

「指針」を通じて、行政の役割が広がる?

推測改正法では、事業者が取るべき措置の指針を総務相が定めます。総務省は7月、現行の情プラ法に基づいて、Google・X・Metaなど5社に情報の公表が不十分だとして勧告を出しました。今回の改正で、選挙という政治的に敏感な分野にも、行政が事業者に働きかける余地が広がることになります。共産党などが「行政が選挙運動の指針をつくること」を懸念するのは、この点だと考えられます。

推測のもとにした事実

与野党各党

来春の統一地方選に「間に合わせる」日程

推測改正法の施行は2027年3月で、来年4月に見込まれる統一地方選から適用されます。年内に指針案をまとめ、パブリックコメントを経て施行に間に合わせるという日程は、全国で多くの選挙が一斉に行われる統一地方選を前に、「対策をした」という形を整えたい各党の思惑とも重なります。

推測のもとにした事実

世の中の声

世論調査

  • 日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査(2025年2月、法案審議の前)では、選挙時のSNS対策について「SNS事業者に法律で対策を義務付けるべきだ」47%、「自主規制を促すべきだ」24%、「規制や対策は必要ない」20%でした。10〜20代では「必要ない」が43%で最も多く、50代以上は半数超が法律での義務付けを求めていました。改正法の成立後の全国世論調査は、確認できた範囲では見当たりませんでした。

    日本経済新聞(日経・テレ東世論調査)

SNSの反応

対策強化寄りの声

  • 選挙中に、経歴を偽っているという根拠のないデマを流されて、打ち消すだけで手いっぱいになった。候補者が政策を訴える時間が奪われるのはおかしいと思う

慎重寄りの声

  • 選挙のSNS規制には反対。何が「偽情報」かを決める人が、都合の悪い意見まで消してしまわないか心配

  • 偽情報が問題だというなら、新聞やテレビが間違った報道をしたときはどうなるのか。SNSだけが狙い撃ちされているように見える

集め方:X(旧Twitter)で「SNS規制 選挙」「選挙 偽情報 収益化」「選挙 デマ」(いいね100件以上・話題順)で検索し、2026年6月〜10月10日の日本語投稿を確認しました。規制に反対・警戒する投稿が多く、規制を支持する一般の投稿は少なかったため、推進側は候補者の立場からの声を1件だけ紹介しています。特定の政治家や団体を中傷する投稿は除いています
無作為に抽出したものではなく、世論を代表するものではありません。
「共感」の数は当サイト読者の反応で、世論調査ではありません。1つの声につき1回押せて、もう一度押すと取り消せます。

③ ポイント整理

意見が一致している点

  • SNSでの偽情報や生成AIによる偽動画が、選挙の公正を損なうおそれがあること
  • 表現の自由や選挙運動の自由は最大限尊重されるべきこと(提出者も、慎重派も、収益化停止を求める社説もこの点は認めています)
  • 個別の投稿の削除を国や事業者に義務づけるべきではないこと(今回の申し入れでも削除は求めていません)

意見が分かれている点

  • 収益化の停止を、事業者の判断に任せるべきか、法律で義務づけるべきか
  • 罰則のない規定でも、投稿の萎縮は起きるのか
  • 総務相の指針や勧告を通じて、行政が選挙中のSNSに関わることの是非
  • 政党の有料ネット広告も規制すべきか

今後の注目点

  • 年内にまとまる総務省の指針案と、パブリックコメント
  • X・YouTubeなどの各社が、選挙期間中の収益化にどう対応するか
  • 2027年3月の施行と、4月の統一地方選での運用
  • 政党の有料ネット広告やボット対策など、積み残された課題の議論

偽情報が選挙をゆがめるおそれがあることや、表現の自由を守る必要があることは、どの立場も認めています。対立の中心は、その2つのバランスをどこに置くかです。 新聞各紙の社説は「事業者任せでは効果がない」として、収益化の停止など踏み込んだ対策を求めています。一方で、何が偽情報かの判断が難しいことや、萎縮・行政の介入を心配する声もあります。年内にまとまる総務省の指針と、来春の統一地方選での運用が最初の試金石になります。

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